トラックや長距離バスなど輸送車両においては「過労運転」に対する管理も厳しくチェックされていますが、社用車を保有する全ての企業でも従業員の身体の状態に十分気を配らなくてはなりません。日々の勤務時間・勤務状況を把握することに加え、体力や経験の差を踏まえ、直接顔を見て健康状態を判断することは欠かせないのです。過去には従業員の過労を知りながら運転をさせ、結果として多重事故を招いてしまい、管理責任を問われ、運転手とともに管理者も逮捕された例もあります。しかし、法律違反につながるにも関わらず、その詳細は意外と知られていないことが実態です。今回は、管理者が知っておくべき疲労時の運転リスクと対策例をご紹介します。
■過労運転における「過労」の定義とは?
■過労運転が招く悲惨な事故
■従業員の疲労を放置すれば管理者にも責任が
■疲労のシグナルを見逃さない対策を
厚生労働省が公開している「自動車運転者の労働時間等の改善の基準」では、自動車の種別にその基準が示されています。例えば、「1日の最大拘束時間」「1日の休息時間」「連続した運転時間の上限」といった具合です。社用車で営業を行う業態ではこれらの基準が全て当てはまるわけではないものの、管理が十分でないケースも多く、運転の長時間化や長時間労働が見落とされやすい状況にあります。だからこそ、各社の業務形態を踏まえた管理方法を検討することが大切です。
いかに業務がひっ迫していても、長時間労働により疲労が過度に蓄積した状態で自動車を運転してはいけません。このことは法律にも明記されており、違反した場合には企業や管理者に責任が問われます。
道路交通法第66条第1項では次のように示されており、過労の他、病気や薬物の影響がある場合の運転も禁止されていることがわかります。
“第六十六条 何人も、前条第一項に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。”
出典:e-Gov(法令データ提供システム) - e-Gov法令検索
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=335AC0000000105_20180401_429AC0000000052&openerCode=1#633
しかし、過労運転の明確な基準が法律に明記されているわけではないため、その判断は各企業やドライバーに委ねられています。だからこそ、社員一人ひとりが自身の体調の判断に責任を持つと同時に、企業としても疲労が蓄積した状態で運転させない仕組み・体制づくりが求められます。そのためにも、管理者が部下の勤務時間や健康状態を漏れなく把握することや、表情や会話から健康状態を知ること(例:残業が続いていないか、風邪で体調を崩していないか)は基本といえます。
一方で、これらの点が守れずに悲惨な事故を招いた例も存在します。例えば、2016年に広島県東広島市の山陽自動車道で発生した事故では、トラックが渋滞で停車中の車列に突っ込み、2人が死亡しました。この事故では、事故を起こした運転手に懲役4年の実刑判決が下されたことに加え、運送会社と同社の運行管理者も逮捕、起訴されています。この判決によって、極度の過労で正常な運転ができないと知りながら運転を指示したことは、雇用主・運行管理者に重い責任があると示された形です。
この他、2009年に鳥取県の大学病院に勤めていた医師が、通勤中に大型貨物自動車との衝突により死亡した事故では、大学病院側の安全配慮義務違反を認める判決が下されています。この判決では、当医師が大学病院での勤務で極度の睡眠不足・過労状態にあったにも関わらず、大学病院が必要な配慮を怠ったと認められました。
参考:社用車での居眠り運転を防止するには?会社が負う責任の種類も解説 |お役立ち情報|パイオニア株式会社 (pioneer.jp)
過労とは、疲労が蓄積した状態。では、例えば部下が最近多忙であり、疲れているのを知っていながら事故が起きた場合、実際に運転を命じていなくても企業・管理者の責任問題になるのでしょうか。
過労運転による事故が発生した場合、刑事責任を追及されるのは運転者本人だけとは限りません。
実際に、道路交通法75条では、過労運転で事故が発生した場合、刑事責任を問われるのは運転者本人だけとは限らないとしています。
“第七十五条 自動車(中略)の使用者(安全運転管理者等その他自動車の運行を直接管理する地位にある者を含む。次項において「使用者等」という。)は、その者の業務に関し、自動車の運転者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることを命じ、又は自動車の運転者がこれらの行為をすることを容認してはならない。”
出典:e-Gov(法令データ提供システム) - e-Gov法令検索
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=335AC0000000105_20180401_429AC0000000052&openerCode=1#730
「マイカーの居眠運転による死亡事故は、長時間労働が原因と勤務先を提訴」
パンの製造販売会社に勤める男性が通勤時に居眠運転に陥ったのは、長時間労働が原因だとして、平成28年9月に男性の遺族が勤め先の会社に対して損害賠償を求め神戸地裁に提訴しました。
訴えによりますと、28歳の男性は、深夜に宝塚市にある店舗から車で自宅に帰宅する途中、ガードレールに衝突する事故を起こし死亡しました。
男性の時間外労働は、毎月130時間を超えていて、最も多い月では186時間に達していたということです。遺族は、会社側が長時間労働を放置し安全配慮義務を怠ったために事故が起こったとして、1億1,700万円の損害賠償を請求しています。
参考)https://www.think-sp.com/2017/11/01/kikikanri-kajurodo-chojikanunten/
こうした法律の存在を踏まえると、事業主や管理者は、慢性的に社員を疲労状態のまま勤務をさせていた場合、死亡事故のリスクを上昇させるだけでなく、企業の社会的信頼度も大きく影響することがわかります。
特に営業職は、外回りが多いほど多忙になり業務をこなそうとするあまり、日々自らの体調含め安全運転を意識して運転することは困難でしょう。だからこそ、事業主や管理者には、まず社員の疲労状態や社用車の利用状況を正確に把握することが必要です。
定量的な把握という意味では、一日の移動距離に無理が無いか、業務量は適正かどうか、十分な休憩を取っているか、といったことの管理が必要です。そして、定性的な把握に関しては、各社員の運転の癖を把握し、異常が感じられたときにはいち早く気づく、といった取り組みが考えられるでしょう。急ブレーキや急ハンドルが増えるなどしていたら、それは居眠り運転や注意力低下の要注意のシグナルといえます。明らかに疲労が見られる社員に対しては、運転をさせないという判断も必要です。
昨日は遅くまで残業していたが、車で出かけて大丈夫だろうか? そんな心配をしたことがあるなら運転状況を可視化できるツールの導入を検討しましょう。
パイオニアのビークルアシストは、今回ご紹介した企業・管理者に求められる「安全運転管理」を仕組み化したソリューションです。社用車に設置した通信型ドライブレコーダーを利用し、危険挙動が起きると動画データをサーバーに自動でアップロード。同時に管理者へメール通知を行うので手間なく状況を把握することができます。
その他にも、走行データを自動で記録するので、日報・月報や運転状況をレポート化する機能を活用すれば、運転時間や運転傾向を把握することができ、個々の運転課題にそった効果的な指導も可能になります。
この他、事故防止・削減に向けた具体的な打ち手をお探しの企業様は、ぜひ次の無料ホワイトペーパーをご覧になってみてください。