どうしても会社の車の事故が減らない。あれほど口すっぱく言ったのにーー。かつてそんな悩みを抱えていた上西一美さん。その状況を変えたのが、ドライブレコーダーだった。映像の活用により事故を未然に防ぐことにつながった経験を活かし、現在は交通安全コンサルタントとなった上西一美さんにインタビュー。業務用車両のドライブレコーダーを探しているが何を選べばいいかわからない、つけてはみたが活用ができていないといった方に向けて、ドライブレコーダーの運用の仕方から選び方までアドバイスをいただいた。
タクシー会社の社長就任時代に事故削減率70%を実現。現場で培ったノウハウを元に独立し、以来コンサルティングやセミナー活動を行う。2017年は400回以上の企業向け研修等を実施。
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事故を減らす取り組みをしながら、それでも減らないという企業の悩みは多く聞かれる。事故の結果だけでなく、その原因にも目を向ける必要があると上西さんは語る。 上西さん「事故を記録した映像を何本も分析してみると、十分な車間距離が開いていたにもかかわらずぶつかってしまうケースが多々あります。『法定速度を守る』『車間距離保持』は当然大事。でも実はそれ以上に注意が必要なのは『慣れ』です。ちょっとくらいスピードを出していても大丈夫だった、ほんの一瞬だけ止まる一時停止でも事故に遭わなかった、そういった『良くない経験』でも、繰り返されると『ふつうのこと』になっていきます」 ちょっとくらいは平気という経験が積み重なると、ある日突然事故になる。新人ドライバーの場合は経験不足による判断ミスや操作ミスが原因の多くを占めるが、ベテランの場合はむしろ慣れや過信。 最高速度60キロの道路を40キロで運転しているから大丈夫と安心し、前方の状況に気づかないまま追突してしまうといったことが起きるのだ。
慣れという原因を知れば、事故を減らすポイントは「ドライバーが事故の怖さを持っているか」だとわかる。
自分の身にも事故は起きうると理解するとドライバーの運転は変わる。
そのためにドライブレコーダーの映像を活用すれば手っ取り早いし、ドライバー本人に見せたときも客観的な記録として納得がいく。カメラの位置もドライバー目線に近く自分ごと化しやすい。
夜中に子供が飛び出してくる、こんなに交通量が多い道路で人が横断するなんて、道路の真ん中に人が倒れていた、など、これらは実際事故となった状況だ。“まさか”“そんな状況ありえない”という状況で事故は起きている。
ヒヤリとする映像にドライバーはドキリとし、事故の怖さを持つことができ、事故予測の引き出しを増やすことにもつながる。
それはまた、事故を起こした際の自覚を促す点でも有効だ。
上西さん「事故が起きた際、ドライバーは自分のミスを自覚できていないケースがある。例えば『急に脇の道路から車が飛び出してきた』だったとしても、ドライブレコーダー映像にはその車の姿がしばらく映っていた。あらためて映像を見せて自覚させるとたいてい本人も納得します」
では、管理者は何から取り組めばいいのか。ドライブレコーダーを導入したら、そこに記録された映像を見るようにすること。
上西さん「何もしなければドライバーはドライブレコーダーがついていることに慣れてしまい、3ヶ月もすれば抑止効果が落ちてしまいます」
管理者に映像分析などの難しい知識は不要。
そのドライバーの癖や、日頃どんな道を走っているのかを知ることがポイントだ。
映像は日々確認できるのがベストだが、週に一回でもいいので
少し危険な運転だなと思う映像があったら、ドライバーと共有することを勧める。
上西さん「多くのドライバーは自分が走った映像を見ることがない。時々でも記録映像を見せるだけで、自覚が高まり安全運転の向上にも役立てることができます」
管理者によるチェックが定期的に行われていることをドライバーが意識することで、危険運転の抑止効果も続くわけだ。
「指導」しなければと難しく考えたり厳しく接する必要はない。映像を通じてドライバーとコミュニケーションを取ると考えるくらいでちょうどいい。
日頃のコミュニケーションの延長でも、安全運転意識は十分高まる。また、映像を活用すれば、感覚的であいまいだった話も論理的で具体的になる。
例えば、ドライバーはちゃんと一時停止して左右を確認したと思っていても、映像を見てみると停止と確認のタイミングのズレが見つかることがある。
「ちゃんと確認した?」「ちゃんとしましたよ」という言葉だけでのやりとりでは問題の解決には近づかない。
上西さん「一時停止であれば、『人間の認知には2秒かかるから、停止した後に右左と確認、再度右を確認したら6秒必要』と指導すると、あいまいな部分はなくていいのですがちょっと難しくなってしまう。ところが同じことでも映像を使えば簡単にできるんです」
自分は事故を起こさないというドライバーの思い込みを変えることは、言葉だけでは簡単ではないが、映像の力を借りれば本人の中から認識が変わっていく。
上西さん「管理する立場の方は事故を減らしたいと必死だと思います。時には事故を起こしてしまったドライバーに対して『しっかりしろ!』『プロドライバーだろ』という気持ちになることもあるかもしれません。でもそれを言ったところでドライバーの行動が変わるかどうか。人と人との関係ですから伝え方はとても大事です。ドライバーの性格や自分との信頼関係、その場の空気などを踏まえて、どう伝えれば行動が変わるか。映像に多くを語ってもらい、ドライバー自身に気づいてもらえれば、指導者がかける言葉は少なくてもいいんです」
再発防止のための原因追求は大事でも、責任追及は別。当たり前のことだが、わざと事故を起こそうというドライバーなんていない。
上西さん「『事故をしたドライバー』ではなく『起こしてしまったドライバー』だという認識を持って、どうすればその状況を回避できたか、映像をもとに気づきを与えて安全運転の向上につなげることが、ドライバーにとっても雇用している会社にとってもハッピーなことだと思います」
ドライブレコーダーの映像が可能にするのは、悪い運転の指摘だけではない。 上西さん「たとえば、子どもの飛び出しでドライバーが急ブレーキを踏んだとします。その映像には本当に見えにくく予知もしにくいところから子どもが飛び出す様子が映っていたとしたら『よく止まれたね』ととっさのブレーキをほめることができます」 デジタコではそこまでわからない。速度の記録だけを見てドライバーに急ブレーキの原因を質問し、「子どもが急に飛び出してきたんです」と正直な返事があっても、「ぼんやりして見落としていたんじゃないか?」とドライバーを問い詰めてしまうかもしれない。ドライブレコーダーは、よい運転をほめるチャンスとしても使うことができる。ドライバーのモチベーションが高まり、その働きが結果として会社にもプラスになる。
相手を注意するときに「ふつう」という言葉を使ってしまうこともよくある話。 上西さん「事故が起きた時に、『ふつうこんな運転しないよね』と指導者に言われてもドライバーは反発するだけです。その『ふつう』というのは、考えてみれば話す人にとってのふつうでしかありませんから」 そこで、はっきりとしたルールをつくるのも良い方法だという。道路交通法は指導する立場の管理者ですら忘れがちな部分もあるため、住宅地では時速何キロまでに控えるといった具体的で覚えやすい社内ルールを決め、守るべき基準を明確化。そうすればドライバー自身も問題を指摘された時に納得できるはずだ。
ドライブレコーダーの普及は急速に進んでいる。にもかかわらず、安全運転のために活用している会社はどれほどあるだろうか。防犯や事故処理時の保険の過失割合を減らすためなど、活用は万が一の時だけ。 上西さん「それではもったいないし、高い買い物になってしまいます。ドライブレコーダーは事後処理だけでなく、日々運用することで安全運転にも役立てられます。そのためには、管理者にとって使いやすいものを選ぶことをお勧めします」
上西さん「私が以前勤めていた会社で安全運転の指導をしていた頃は、SDメモリーカードからパソコンに映像を読み込むだけで何時間もかかって大変でした。今では通信型のドライブレコーダーがあるので、リアルタイムであったり管理者が自分の都合で映像を確認できるのはとても効率がよい。当時あればどんなに楽だったか」
ドライブレコーダーには事故の状況が記録できる性能は必須。その上で、管理者の他の業務に支障が出るようでは継続は難しくなるので、日々の活用を想定してみることが肝心です。ドライブレコーダーには、運用の方法としてSDメモリーカードを回収し映像をチェックする方法と通信による方法の2つがあります。
導入企業が増えてきた通信型ドライブレコーダーのメリットは、SDメモリーカードの回収を待たずに映像を確認できるので、管理の負担を減らせるという点がポイントです。
パイオニアの通信型ドライブレコーダーは、万一の時も、ドライバーは、通信型ドライブレコーダーのボタンを押すだけで管理者へ緊急連絡や状況報告ができるので、社内での対応が早くできるなどリスク管理の点でも有効な機能が搭載されています。