ハインリッヒの法則とは、1件の重大事故の背景には、29件の軽い事故と300件のヒヤリハット(事故の1歩手前の出来事)があるという法則です。ハインリッヒの法則を正しく理解することで、交通事故の防止につながります。 本記事では、ハインリッヒの法則やよくある勘違い、交通事故のヒヤリハット事例、重大な事故を防ぐための取り組みを詳しく解説します。
1-1.ヒヤリハットの対策によって災害が発生する確率を下げられる
1-2.ハインリッヒの法則とよく似たバードの法則
1-3.ハインリッヒの法則でよくある勘違い
3-1.ヒヤリハット事例を共有する
3-2.危険予知訓練(KYT)を実施する
3-3.企業向けの安全運転指導を受ける
3-4.AIを活用した事故防止システムを導入する
4.ハインリッヒの法則を正しく理解し、事故防止に向けた取り組みをしよう
ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)は、アメリカの損害保険会社で働くハーバート・ウィリアム・ハインリッヒが、膨大なデータを分析して発見した法則です。
厚生労働省はハインリッヒの法則を「同じ人間が起こした330件の災害のうち、1件は重い災害(死亡や手足の切断等の大事故のみではない)があったとすると、29回の軽傷(応急手当だけですむかすり傷)、傷害のない事故(傷害や物損の可能性があるもの)を300回起こしているというもの。300回の無傷害事故の背後には数千の不安全行動や不安全状態があることも指摘しています」と説明しています。(※)
※参考:厚生労働省「ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)」
ヒヤリハットとは、仕事をしていてヒヤっとする危ないことが起こったが、幸い災害には至らなかった事象のことを指す言葉です。交通事故に置き換えると、凍結した路面でのスリップや仕事帰りの居眠り運転、前方不注意による危険運転など、あと1歩で事故になりそうな出来事をヒヤリハットと呼びます。
ハインリッヒの法則に照らし合わせて考えると、ヒヤリハットは無傷害事故の背後にある不安全行動や不安全状態のことです。会社内のヒヤリハットを分析して適切に対策すれば、災害の発生件数を減らすことができ、重大な事故の防止につながります。
ハインリッヒの法則とよく似ているのが、バードの法則です。フランク・バードは297社の企業の175万件の事故データを分析し、事故の程度ごとの発生割合を算出しました。(※)
事故の程度 |
発生割合 |
重傷または廃失 |
1 |
傷害 |
10 |
物損のみ |
30 |
傷害も物損もない事故 |
600 |
バードの法則は、比率の違いはあってもハインリッヒの法則と同様、1つの重大事故の背景には、事故につながるさまざまなミスや見落とし、ヒヤリハットが潜んでいることを示しています。バードの法則からも分かるとおり、ヒヤリハットを起こしたらその段階で安全対策を考えることが大切です。
※参考:厚生労働省「バードの分析」
ハインリッヒの法則の説明で、よくある勘違いが2つあります。
|
正 |
誤 |
A |
一人の従業員が330件の事故を起こしたとき、 |
会社全体で合計330件の事故が起きたとき、 |
B |
類似する事故が330件起きたとき、 |
さまざまな事故が330件起きたとき、 |
Aの勘違いは、会社全体で合計330件の事故が起きたとき、その1件が重大事故となるというものです。しかしハインリッヒの法則は、一人の従業員が事故を起こしたことを想定して、重大事故が起きる割合を計算しています。不特定多数の人間ではなく、同じ人間が事故を起こした場合の統計であることを伝えると、従業員により危機感を持たせられます。
またBの勘違いのように、ハインリッヒの法則は無作為な事故を対象とした統計ではありません。例えば、交差点での事故や降車時の事故など、類似する事故が330件発生した場合を想定した法則です。つまり、同じような事故が重大な事故につながるか、ヒヤリハットで終わるかは、その時々で異なります。これまではヒヤリハットで終わった事故が、別の日には重大な事故につながるかもしれません。
安全講習などを通じて、社用車や営業車を運転する従業員がハインリッヒの法則を正しく理解して危機感を持ってもらう環境づくりがことが大切です。
交通事故のヒヤリハットといっても、具体的にイメージできない人が多いかもしれません。中央労働災害防止協会(JISHA)のホームページでは、22件のヒヤリハット事例がまとめられています。日常に潜む危険な場面を確認し、重大事故に備えられるようにしましょう。
例えば、歩車分離式信号機のある交差点で、歩行者用の信号を見て車を発進させたら危うく人をひきそうになったというヒヤリハット事例や、トラックから荷卸ししているときに運転手が作業者に気が付かずぶつかりそうになってしまったというヒヤリハット事例などがあります。それぞれのヒヤリハット事例の状況や原因、対策などを話し合った上で、従業員の安全運動指導を適切に行っていきましょう。
【中央労働災害防止協会】
https://www.jaish.gr.jp/anzen/sai/kotu_saigai.html
重大な事故を未然に防ぐために、企業にできることは4つあります。
それぞれ詳しく解説するので、できるところから交通安全対策に取り入れてみましょう。
社内でヒヤリハットが起きたら、関係者を含めてすぐに共有しましょう。中央労働災害防止協会のヒヤリハット事例集のように、そのときの作業の種類やヒヤリハットの状況、原因、対策の4点をまとめることで、ナレッジとして今後の事故防止に活かせます。
例えば社用車で営業先に向かう途中、他の車や木陰に隠れて見えなかった人や物にぶつかりそうになったとします。当事者である従業員は、事故を起こさなくて良かったと安堵してその事実を終わらせることなく、上司やチームリーダーなどの然るべき存在にヒヤリハット事例を報告することが大切です。必要に応じて報告書を作成したりマニュアルの改正を行ったりするなど、重大事故を未然に防ぐ取り組みを強化する必要があります。
大掛かりな交通安全対策はコストも時間もかかりますが、ヒヤリハット事例への対策はすぐに行えます。これから交通安全対策に取り組む企業は、まずヒヤリハット事例を社内全体で共有することからスタートさせましょう。
従業員の交通安全意識をより高めたい場合は、危険予知訓練(KYT)を実施することもおすすめです。KYTとは、危険(K)・予知(Y)・トレーニング(T)の頭文字を取った言葉で、普段の仕事に潜む危険を感じ取り、問題を解決する能力を高める訓練を指します。KYTの導入によって、ヒヤリハットに対する感受性が高まるだけでなく、職場の5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底や職業倫理の向上にもつながります。
社用車や営業車を運転する機会が多い従業員に対しては、企業向けの安全運転指導(実車指導)を受けさせる方法もあります。実車指導は自動車教習所などが行っており、事前に申し込みが必要です。座学だけでは気付きにくい運転上のコツや注意点を実車で学ぶことができ、安全運転を身につけられます。
例えば前方車両との適切な車間距離やカーブでのスピード調整などは、座学だけではなかなか理解できません。他にも、自分では気が付きにくい運転のくせや習慣がある方は、プロの指導によって事故のリスクを下げることもできます。
営業周りやルート配送など、日常的に運転する機会が多い従業員には、実車指導ベースの安全運転指導が有効でしょう。
近年、AIによる画像認識・画像解析技術を活用した事故防止システムが注目を集めています。事故防止システムでは、ドライブレコーダーのデータなどをAIで解析し、重大な事故につながるわき見運転や居眠り運転などのヒヤリハットを検知することが可能です。
危険予知訓練や実車指導といった安全運動指導は、どうしても手間や時間がかかります。事故防止システムを導入すれば、ドライバー一人ひとりに合わせた運転指導を作成でき、ヒヤリハットを削減することが可能です。社用車・営業車の交通事故を予防したい企業や、従業員の安全運動指導を強化したい企業は、AIを活用した事故防止システムの導入を検討しましょう。
ハインリッヒの法則とは、重大な事故の背景には数多くの目に見えないヒヤっとしたことやハッとしたこと(=ヒヤリハット)が潜んでいることを指す法則です。ハインリッヒの法則をもとに過去のヒヤリハット事例を共有すれば、従業員の交通安全意識を高められます。より効果的に交通事故対策をするのであれば、AIを活用した事故防止システムの導入も検討しましょう。
事故防止に向けた取り組みであれば、パイオニア株式会社のクラウド型運行管理サービス・ビークルアシストがおすすめです。ビークルアシストには危険挙動を自動で検知し、ドライバーに警告する機能が搭載されています。また危険挙動のレポートは管理者にも送信され、関連した危険挙動動画を閲覧することが可能です。手間のかかる安全運転指導を自動化し、一人ひとりの運転に合わせた指導が手軽に行えます。
従業員の安全運転施策や管理方法をご検討の方は、ビークルアシストなどの車両の運行管理を導入して運転中のヒヤリハットを減らし、重大事故を未然に防ぎましょう。