車の運転は、少しの気の緩みで交通事故につながってしまう可能性があります。交通事故は人身事故と物損事故に分けられますが、どちらの事故であるかを誰が決めるのでしょうか。 本記事では事故の種類を決め方や人身事故と物損事故の違い、社用車で交通事故が発生した場合の会社の責任などを解説します。
4.社用車による事故は業務中か業務時間外で責任が変わる可能性がある
4-1.業務中の事故で発生する責任
4-2.業務時間外に私的利用の事故で発生する責任
5.従業員のマイカーによる事故でも会社が責任を問われるケースがある
5-1.業務中に発生した事故
5-2.業務時間外に発生した事故
5-3.通勤途中に発生した事故
6-1.壊れた社用車の修理費は従業員に請求できるケースもある
7-1.研修を通して交通安全への意識を高める
7-2.社用車についてのルール作りをする
7-3.従業員の体調管理を徹底する
7-4.社用車を初めて運転する従業員への教育を忘れない
7-5.車両管理システムを導入する
8.万が一の際に備えて事故の対処法を従業員に伝えておくことも重要
8-1.社用車を安全な場所に停車させる
8-2.怪我人に処置を施す
8-3.危険防止措置をとる
8-4.警察に連絡する
8-5.自社と保険会社に連絡をする
8-6.事故に巻き込んでしまった相手と目撃した人の連絡先を確認する
8-7.事故の詳細をメモに控える
発生した交通事故について、人身事故なのか物損事故なのかを決めるのは警察です。ただし警察がその場で独断的に決定する訳ではなく、事故によって怪我が生じたことを証明する診断書を被害者が警察に提出することで、人身事故として扱われます。そのため、診断書は事故が人身事故だと証明する、重要な書類といえるでしょう。
人身事故だと証明する診断書の作成ができるのは医師のみに限られています。症状によっては整骨院や接骨院に通うケースもありますが、施術を担当する柔道整復師などは診断書の交付を行えませんので、注意が必要です。警察に人身事故として扱ってもらうには、必ず病院へ行きましょう。
人身事故か物損事故かは基本的に警察が決めますが、両者の違いはどこにあるのでしょうか。ここでは人身事故と物損事故の違いについて解説します。
人身事故とは交通事故によって、身体や生命に損害が発生してしまった事故です。人身事故は運転手だけでなく、同乗者が事故によって怪我や亡くなってしまった場合も当てはまります。人身事故の具体例をいくつか見てみましょう。
また、人身事故は損害賠償の適用範囲の広さが物損事故と異なります。車両の修理費などの賠償金を請求できるのはもちろんのこと、事故によって負った怪我や病気の治療費の他、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料なども請求することが可能です。目に見える被害の補償に加えて、事故が原因で精神的なダメージを受けたときにも賠償の対象となります。怪我の治療に精神的苦痛を感じていたり、通院の手間や時間的な拘束に不自由さを感じたりしているといったことも、精神的損害に含まれます。
その他にも、事故により会社が休業すると休業損害が適用されたり、後遺症が原因で働く日数に限りが出た場合には減った年収に対しての逸失利益が得られたりと、人身事故ではさまざまな補償を加害者に請求できるのです。
物損事故とは、車や建物などに損害が発生した事故です。例えば次のようなケースが物損事故として扱われます。
物損事故の場合、被害者は事故によって発生した損害を補てんする金額を、損害賠償金として受け取ることができます。
この金額は車を買い替えたり修理したりする費用だけではありません。例えば、代車を借りるのにかかった費用や事故によって破損してしまった積み荷など費用も含まれます。ただし補償の範囲は物的損傷のみにとどまるため、治療費や精神的ダメージによる損害賠償は含まれません。事故によって怪我をした場合は、必ず診断書を警察に提出して、人身事故として処理してもらう必要があります。
なお、物損事故では原則的に慰謝料は認められませんが、過去の事例にペットとして飼っていた犬が交通事故により負傷したことで物損事故の慰謝料が認められたケースがあります。
本来ペットは財産として扱われるため、もし交通事故が原因で怪我をしたり命を落としたりしてしまった場合、慰謝料は発生しません。
しかし、過去には交通事故によってペットに重い障害が残ってしまったり、命を落としたりした際に慰謝料が認められた事例があります。(※)
このケースでは、被害者にとって家族と変わらない存在だったペットが、事故によって重い障害を負ったことで、被害者に精神的苦痛が認められたため慰謝料が発生しました。
このように被害者に精神的苦痛が認められると、物損事故であっても慰謝料が認められることがあります。
※参考:最高裁判所. 「裁判例結果詳細」
人身事故、物損事故と2種類に分かれる交通事故が発生してしまった場合、責任を負うのは運転者です。
しかし、人から借りた車で人身事故を起こしてしまった場合、車を貸した側も運行供用者として損害賠償を請求される可能性があります。これは友人同士で車を貸し借りした際だけでなく、社用車においても同様です。
従業員が社用車を運転していて事故を起こしてしまうと、事故の種類によって次の責任を問われます。
ここでは従業員の事故によって会社が負うことになる運行供用者責任と使用者責任について解説します。
社用車で事故を起こしてしまった際に会社に発生する運行供用者責任、使用者責任とは次のとおりです。
会社は従業員に業務の一環として車を運転させ、それによって利益を得ていると考えられるため、運行供用者責任が発生します。なので、必ずしも車の所有者が企業でない場合も、運行供用者責任は発生すると認識しておきましょう。
社用車で発生した事故で会社が責任を問われるかどうかは、次のケースで異なるので注意が必要です。
外回りを始め、社用車で業務をしている際に事故を起こしてしまうと、当然従業員は責任を問われ、会社にも使用者責任と運行供用者責任が発生します。通勤時間も業務中とみなされますので、社用車で通勤している社員がいる場合は、あらかじめ時間帯を把握できる仕組みを整えておく必要があります。
一般的に社用車は業務のための使用が目的です。
しかし、福利厚生の一環として社用車の私的利用を認めている企業もあります。従業員が社用車を私的に運転したことで事故を起こしてしまった場合、運転していた従業員は責任を問われます。ただ、会社が運行供用者責任や使用者責任を問われることはありません。
従業員が社用車を無断で私的利用している場合、会社には利益が発生しないため運行供用者責任に当てはまらないからです。また、会社が使用者責任を問われるのは、従業員が業務中に不正行為をした場合です。そのため、業務時間外は会社が使用者責任を問われることはありません。
従業員が起こした交通事故によって会社が責任を問われるのは、社用車だけではありません。従業員のマイカーであっても責任を問われる可能性があります。マイカーの事故で、従業員や会社はどのような責任を問われるのでしょうか。
上記の3つのパターンを例に紹介します。
従業員がルート営業などでマイカーを使用するケースがあります。会社がマイカーを社用として認めている場合、従業員が事故を起こしてしまうと会社は運行供用者責任、使用者責任を問われるかもしれません。
一方、会社がマイカーを社用として認めていないのであれば、会社は責任を問われない可能性があります。
業務時間外に従業員がマイカーで事故を起こしてしまった場合、会社は使用者責任を負いません。同様に会社に利益は発生していないため、運行供用者責任も問われることはありません。
通勤や退勤は業務と連続性があるため、業務中とみなされます。そのため通勤途中の交通事故は、会社も責任を問われる可能性があります。
ただ、通勤や退勤途中にスポーツジムへ寄ったり家族と待ち合わせて食事をしたり、私用のために通勤ルートとは異なる道を使った場合は、業務との連続性が亡くなったと判断し会社に責任が発生しないことがあります。
業務中であれば社用車による事故もマイカーによる事故も、事故を起こした従業員だけでなく会社にも責任が問われます。被害者から損害賠償を請求された場合、従業員と会社の連帯責任となるため、責任の割合は定められていません。そのため、会社と従業員が話し合い責任の割合を決めます。
しかし、一般的には賠償金を支払う能力が高い会社側に請求されることが多いです。そして会社は求償権として賠償金の一部を事故を起こした従業員に請求をします。
事故によって破損した社用車の修理費用は、会社が負担するのが一般的です。
しかし、会社は次のようなケースに該当すれば従業員に修理費を請求できます。
ただし従業員に修理費用を請求する場合、契約書に賠償の予定を盛り込むことはできません。労働基準法の第16条では賠償予定の禁止として次のように定めています。
“使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない”
※出典:e-Gov「労働基準法」第十六条
契約書を作成する際は賠償の予定を盛り込まないようにしましょう。また、事故を理由に従業員にペナルティを科すのも注意が必要です。
就業規則でペナルティの条件が記載されていない場合、従業員に科すことはできません。また、ペナルティとして減給を設ける場合は、労働基準法91条で定められた次の減給範囲の留める必要があります。(※)
社用車を運転中、従業員が人身事故や物損事故を起こさないために、次のような対策を講じましょう。ここでは代表的な例として5つの方法を紹介します。
社用車を使用する従業員の運転スキルは人によってさまざまです。普段からプライベートで車を運転している従業員もいれば、ほとんど運転しない従業員もいます。
運転の熟練度によって交通事故のリスクに差はあるものの、誰にでも交通事故を起こしてしまう可能性はあります。そのため、社用車を運転する全ての従業員を対象に安全運転の研修を実施しましょう。
例えば、自動車教習所の中には企業を対象とした交通安全講習を実施している所があります。このような講習に参加すれば、座学では分からない運転のくせや注意するポイントを知ることができるのでおすすめです。また、無事故の従業員を表彰するといった福利厚生を設けることも、従業員の交通安全に対しての意識向上が期待できます。
社用車を利用する際のルールを、社用車利用規程や就業規則に盛り込むことも大切です。例えば、業務時間外に社用車を利用した際の罰則や事故が起きた際の責任、さらにはマイカーを社用車として利用する際のルールを事前に決めておきましょう。
このとき注意すべきなのが、事故が起きた際の負担金額を定めることは禁止されているという点です。ルール作りの際は具体的な負担内容や金額を定めるのではなく、会社との話し合いで負担内容を決定する旨を明記する程度に留めておきましょう。
従業員の体調管理も社用車での事故防止につながります。例えば運転前に点呼を実施して、アルコール検査や健康状態、睡眠状態の確認を行いましょう。厚生労働省の発表では夜間の睡眠時間が6時間未満の場合、追突事故や自損事故が多くなるとされています。(※)そのため、社用車を運転する従業員が十分な睡眠が取れているかを朝の点呼などで確認することで、事故を未然に防ぐことができます。また、勤務時間を把握して長時間労働が続いていないか、疲労が蓄積していないかを確認することも大切です。
新入社員や異動などで社用車を初めて運転することになった従業員に対しての教育を徹底しましょう。就業規則や社用車の利用規定を伝えて、事故が起きた際の対応などを把握してもらうことが大切です。
社用車による交通事故のリスク軽減が期待できるのが車両管理システムです。車両管理システムには次のような機能が備わっています。
車両管理システムは、前日の危険な挙動の回数に応じた運転評価メールを従業員に送信できます。そのため、講習会などを頻繁に行わなくても従業員の安全運転に対するモチベーションを高められます。
また、車両管理システムの中には業務や走行の効率化を図れる機能があるため、営業活動の生産性向上も期待できます。
社用車による人身事故、物損事故の防止策を講じても交通事故が起きてしまう可能性はゼロではありません。そのため万が一に備えて、交通事故発生時の対処方法を従業員に伝えておくことが大切です。交通事故が発生してしまった場合は次のように対処しましょう。
交通事故を起こしてしまった場合は、社用車を安全な場所に移動させて停車します。停車後は後続車に注意しながら車を下り、被害者の救護を行いましょう。
社用車を道路の真ん中や交差点の死角においてしまうと、渋滞や二重事故の原因となりかねません。事故直後はパニックになりやすく正常な判断が難しいので、安全運転講習などで車を停車させるのに適した場所を教えておくのが望ましいです。
人身事故によって被害者が怪我をしてしまっているのであれば、応急処置を施します。例えば、出血をしている場合は次のような止血方法を試してみましょう。
なお止血を行う際は、手が直接傷や血に触れないように注意してください。手袋などがない場合は、ビニール袋で代用可能です。ただし打ちどころによっては無理に体を起こしたり体勢を変えたりしないほうが良い場合もあるため、必要であれば救急車の要請をし、応急処置の判断を仰ぎましょう。
交通事故が起きたら、後続車の追突など二重事故を防ぐために危険防止の措置をとります。具体的にはハザードランプを付けて事故を周囲に伝える、三角表示板、発煙筒を置いて後続車に事故が起きていることを伝えましょう。
交通事故が発生した場合、警察への連絡が義務付けられています。また、警察に連絡しなければ、保険会社の請求に必要な交通事故証明を受け取れません。そのため、どのような軽微な事故であっても警察に連絡する必要があります。警察に事故の状況を伝える際はあいまいな表現は避け、明確に伝えることが大切です。
警察に連絡し、警察が到着したら実況見分が行われます。実況見分が完了したら、会社と保険会社に連絡します。会社と保険会社に連絡する際も、警察への連絡と同様、落ち着いてはっきりと事故の状況を伝えましょう。
交通事故に巻き込まれてしまった相手の連絡先を聞くようにしましょう。また、車同士の事故であれば、相手の車の登録番号も聞いておきます。
同様に事故を目撃した人の連絡先を聞くことも大切です。客観的に交通事故を把握する上で、目撃した人の意見は欠かせません。
交通事故の状況は賠償額を決める重要な要素です。そのため、事故の詳細をメモに控えておくようにしましょう。時間が経つと記憶が曖昧になってしまう可能性があります。事故直後は気が動転してしまっているかもしれませんが、事故現場の道路状況や衝突位置、車の破損状態、ブレーキ時のタイヤ痕(長さや位置など)をメモに残しておくことが大切です。
交通事故の中でも人身事故であるか物損事故であるかは、警察が決めます。従業員が社用車で人身事故を起こした場合、会社は運行供用者責任・使用者責任を、物損事故を起こしてしまうと使用者責任を問われるかもしれません。このようなリスクを減らすためには、社用車の交通事故を防ぐ対策を講じることが大切です。例えば、車両管理システムは社用車による事故のリスク軽減が期待できるでしょう。
クラウド型運行管理サービスである、パイオニア株式会社のビークルアシストは、社用車が危険な運転をした際に運転手へ音声アラートを鳴らし注意を促します。また通信型ドライブレコーダーを搭載しておけば、事故の12秒前から事故後8秒間の映像を自動的にクラウドへアップロードしてくれます。被害者への対応や警察・保険会社への連絡に追われて事故の状況や記憶があいまいになってしまっても、映像として証拠を残すことが可能です。従業員や会社を交通事故から守るためにも、ビークルアシストの導入をぜひご検討ください。