一定台数以上の社有車を保有する場合、法律によって選任が義務付けられている 「安全運転管理者」。安全運転を確実に実施させることや、その教育を行う義務など、事業主が背負う責任を担う重要な役割です。
安全運転管理者は事故防止・事故削減を進める上で重要性が高いものの、「各企業に1名を選任する」 という特性上からか、具体的な取り組み内容が広く知られていないのが現状です。多数の業務を掛け持ちする総務担当者が兼務する場合も多く、業務の負担も大きいと言えるでしょう。
本記事では、安全運転管理者の業務として道路交通法で定められている 『安全運転指導』 をよりよく行うためのコツをご紹介します。
1-1.近年、業務用車両の重大事故・死亡事故が増えている
1-2.業務車両における事故・違反の例
1-3.安全運転を心がけている「つもり」の、潜在的事故ドライバーが多い
2-1.安全運転管理者の選任義務
2-2.道路交通法にもとづく安全運転管理者の「8つの義務」
3-1.事故防止対策は原因に合わせて分けるべき
3-2.【安全運転指導STEP1】過去の事故データの分析
3-3.【安全運転指導STEP2】問題の特定と目標設計
3-4.【安全運転指導STEP3】関係者同士の役割分担
3-5.日々の安全運転指導のポイント
交通事故の件数自体は減少傾向にあるものの、重大事故や死亡事故の割合は増加傾向にあります。 また、事故件数に占める業務用車両の割合はここ数年増加してきています。
数十〜数百台規模の車両を保有する法人においては、数年に一度は重大事故・死亡事故に遭遇する確率があるため、日々の業務における安全運転の徹底は重要な課題として認識すべきです。
出典:令和元年版交通安全白書 全文(PDF版) - 内閣府 (cao.go.jp)
出典:事業用自動車の交通事故対策事業 | 自動車総合安全情報 (mlit.go.jp)
実際に起こった業務車両の事故・違反の例をご紹介します。どの例もニュースで報道され、企業名も公開されました。
飲料メーカー社員が営業中に居眠り運転をして 3 人をはね、1 名が死亡、 1 名が重体、 1 名が重傷となった
飲酒運転のトラックが下校中の小学生の列に突っ込み、児童 2 名が死亡、3 名が重傷となった
社有車が、歩行者がいる横断歩道を一時停止せずに通過し、映像が SNSで拡散され多くの非難を浴びた
このような事故のみならず、事故には幸い至らなかった危険運転であったとしても、企業にとっては大きなリスクとなります。
①従業員の負傷…従業員が身体的・精神的にダメージを負い就業不能になるリスク
②保険料などの増大…損害賠償に伴う保険料や経費の増大により、多大なコストがかかるリスク
③社会的ブランドの棄損…事故はもちろん、危険運転であっても、企業名とともにSNS 上で拡散され大きな批判を浴びるリスク
特に社員の行動により③社会的ブランドの棄損をしてしまうリスクのことをレピュテーションリスクとも言いますが、SNSでの情報拡散が突如大規模に起こりえる昨今の状況において頭を悩ませている総務のご担当者も多いのではないでしょうか。
社有車を運転する400 名に調査を実施したところ、常に安全運転を心がけている」と答えたドライバーが82% を占める一方で、運転中にヒヤリハットを感じたことのあるドライバーは88%にものぼりました。
軽微な事故やヒヤリハットは単に運が良かっただけで、一歩間違えば自分や他者の命を脅かす重大な事故になりかねません。 だからこそ、企業では軽微な事故でも撲滅していく必要があります。
社員400人に聞いた「社有車運転時における不安に関する調査」
・調査期間 :2020年8月27日~2020年8月28日
・調査対象 :社有車を持つ企業の社員400 名
・有効回答数:400人
道路交通法に基づき、各企業には下記の基準で安全運転管理者の選任が義務付けられています。
※ 自動二輪車(原動機付自転車を除く)は 1台を0.5台として計算
※ 業務で使用する車両を台数として計算
出典:安全運転管理者(道路交通法施行規則第9条の8)/警視庁HP
安全運転管理者を選任したら、その日から15日以内に管轄の公安委員会(警察署)へ届出書面を提出する必要があります。
選任義務を怠ったり、期限内に届けを出さなかった場合には、 下記のように道路交通法で具体的な罰則が定められているため、注意が必要です。
安全運転管理者には下記の8つの業務が義務付けられています。
出典:内閣府令で定める安全運転管理者の業務(道路交通法施行規則第9条の10)/警視庁HP
これを踏まえ、管理者の義務の一つである事故防止に効果的な「安全運転指導」の方法についてご紹介します。
交通事故の内容を年齢別に詳しく分けてみると、25 歳未満では速度違反や運転操作(スキル)が原因で起こる事故が多く、 55 歳以上では意識が原因のものが多くなっています。
※ 安全運転義務に含まれる7つの区分:操作不適/前方不注意/動静不注視/安全不確認/安全速度違反/予測不適/その他
出典:警察庁 令和2年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について
同じ部署の社員でも事故を起こす原因はそれぞれ異なるため、 原因に合わせた内容の指導を行うことが重要です。
安全運転指導は次の3つのステップで進めると効果的です。
ひとくちに事故と言っても、事故の種類や過失割合など様々な軸で切り分けることができます。 単に件数のみで一律にカウントするのではなく、その構成や割合の推移などを確認し、 自社では何が問題になっているのかを明らかにすることで、 目標設計や実際の指導が意味のあるものになります。
ここまでご紹介したように、事故にも様々な種類がありそれぞれ対策を分ける必要があるため、 単に「事故件数を減らす」という目標にしてしまうと管理者の業務がさらに膨大になってしまい、効果も出にくくなります。 STEP1で行った事故の過去データ分析をもとに自社において優先して取り組むべき課題を特定し、具体的な目標を立てましょう。
業務用車両を使う社員は1人ではないため、管理者1人で日常の指導を行うことは難しいです。そのため、各部署のマネージャーなどと連携しながら、ドライバーへの指導を行うことが必要になります。それぞれの関係者ごとに役割とゴールを明確に設定し、それを達成できているかという観点で日々振り返りを行いましょう。
ここまででご紹介した安全運転指導の3つのポイントを踏まえ、実際に安全運転指導を行う上ではどのような点を意識すればよいのか、ドライバーの改善アクションを促すために有効な2つのポイントをご紹介します。
新人からベテランまで様々なドライバーがいる中で、各ドライバーに指導内容を理解・納得してもらい、実際の行動につなげてもらうのは簡単なことではありません。
成功のポイントとなるのは「内容を自分ごと化してもらうこと」です。 例えば、その日の運転の前後に「昨日はよく眠れた?体調はどう?忙しいけど、焦らずにね」 「今日はどうだった?」など各ドライバーに合わせて声かけやコミュニケーションを行うことで、 ドライバーは指導を素直に受け入れ、その日の運転に活かすことができます。
正論や方法論を伝えるだけでは、ドライバーの具体的な意識・行動には繋がりにくいです。
「この道路は車の流れが速いけど、横断歩道も多いからスピードの出し過ぎに注意してね」など、 そのドライバーの実際の走行データや身の回りの事例を見せながら指導を行うことで、 ドライバーは指導内容を自分ごと化して捉えることができ、運転に活かすことができます。
安全運転指導のやり方は、それぞれの会社の事故の状況や社有車の利用形態などにより、適した実行の仕方が変わってきます。総務担当者が兼任することも多い安全運転管理者の業務はかなり負担の大きいものでしょう。
だからこそ、過去のデータの傾向を参考に、課題に優先順位をつけ効率的に・組織的に安全運転指導を継続できる仕組みを作る必要があります。データを見える化し説得力のある安全運転指導をすることができる体制づくりを考えていきましょう。
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