• 法律知識
  • 社用車・営業車
  • 物流

あおり運転防止に向けて事業者が導入すべきツールとは

近年、大きな社会問題となっているのがあおり運転によるトラブルです。2020年には道路交通法が一部改正され、あおり運転が厳罰化されました。一方で、あおり運転における取り締まりや罰則に関して充分に理解していない事業者もあるのではないでしょうか? 事業用の自動車であおり運転をしてしまうと、刑罰や行政罰だけでなく、事業停止処分が科される可能性もあります。事業者は具体的にどのようにあおり運転に対して向き合っていけばよいのでしょうか? そこで今回は、あおり運転の対象や罰則、あおり運転防止に向けて事業者が導入すべきツールについて解説します。

目次

1.あおり運転の対象と罰則について

1-1.あおり運転・妨害運転の対象は10類型

1-1-1.通行区分違反
1-1-2.急ブレーキ禁止違反
1-1-3.車間距離不保持
1-1-4.進路変更禁止違反・追い越し違反
1-1-5.その他のあおり運転と判断されてしまうケース

1-2.交通の危険の恐れがあると見なされた場合の罰則
1-3.著しい交通の危険があると見なされた場合の罰則

2.自動車運送事業の監査方針について

2-1.あおり運転が監査の対象に
2-2.運行管理者資格者証の返納命令を受ける可能性あり

3.あおり運転のトラブルを防止するために導入すべきツール

3-1.運行管理システム
3-2.ドライブレコーダー
3-3.業務用車載機

4.乗務員教育記録簿を作成することも重要

5.まとめ

 

あおり運転の対象と罰則について

あおり運転を含む妨害運転の罰則は厳格化されています。
あおり運転が厳罰化されたきっかけは、2017年6月に神奈川県の東名高速道路で起きた事故です。この事故は、あおり運転によって追い越し車線に停車させられていたワゴン車が後続のトラックに追突されてワゴン車に乗っていた夫婦が死亡、長女と次女も負傷しました。
事件発生から5年経った今も裁判が続いている非常に大きな事故です。

では、どのような運転の仕方があおり運転とみなされるのでしょうか。あおり運転の対象を理解しておくことは、事業者が車両管理する上で大切な要素になります。
あおり運転を含む妨害運転の対象になる事例と、交通への危険があると見なされた場合の罰則について押さえておきましょう。

あおり運転・妨害運転の対象は10類型

あおり運転・妨害運転の対象は10類型あります。通常走行しているつもりでも、状況によってあおり運転と見なされてしまうこともある注意しましょう。

通行区分違反

対向車線にはみ出して運転するケースです。停車しているトラックやバスを避ける際に、センターラインを越えて走行する、右左折専用レーンがあるのに利用せずに右左折する行為などが当てはまります。
たとえ対向車を脅かす目的でなくても、対向車や後続車に不安感を与えることがあるため、あおり運転の対象になる場合があります。

急ブレーキ禁止違反

危険回避の目的以外で急ブレーキをかける行為も、あおり運転の対象となるケースがあります。危機回避以外の急ブレーキは、後継車を玉突き事故させるような二次被害を及ぼしかねません。

車間距離不保持

前を走る車に対して、適切な車間距離を保たずに接近する行為もあおり運転の対象となります。車間距離を保持していない状態で、前車にぴったり速度を合わせて走行することもあおり運転にあたります。

進路変更禁止違反・追い越し違反

急な進路変更や追い越しもあおり運転の対象となる可能性があります。ウインカーを出さない進路変更や不必要な進路変更は止めましょう。また、強引な追い越しや追い越し禁止エリアでの追い越しもあおり運転の対象になります。

その他のあおり運転と判断されてしまうケース

他にも、不必要なクラクション、過度なハイビームやパッシングもあおり運転と判断されてしまう場合があります。
威圧行為が目的の蛇行や幅寄せといった安全運転義務違反もあおり運転とみなされます。蛇行や幅寄せは、事故の原因になるだけでなく、相手側に不安や恐怖を与えます。
高速道路上では、法定速度を大幅に下回った速度で走行するとあおり運転の対象になる場合があります。また、高速道路上での駐停車もあおり運転と見なされることがあります。高速道路上で低速走行や駐停車をすることは、後継車への迷惑行為になるだけでなく、交通網の妨げになってしまいます。
このように、あおり運転にはさまざまなケースがありますが、自己中心的な運転はあおり運転の対象となってしまう可能性が高くなります。自分が同じ行為をされた時を想定すれば、不快感を覚えるはずです。常に自分の運転に対して客観視を持ち、思いやりとゆとりを持った運転が必要になります。

交通の危険の恐れがあると見なされた場合の罰則

交通の危険の恐れがあると見なされると、懲役や罰金などの罰則、免許取り消しなどの行政処分が下されます。あおり運転・妨害運転の罰則は、交通への危険を生じさせる程度によっても異なります。
他の車両等の通行を妨害する目的で、先ほど紹介した10類型に該当する違反を行い、交通の危険の恐れがあると見なされた場合、3年以下の懲役、または50万円以下の罰金となります。また、違反点数25点となり、これまでの違反点数がない場合も一度で免許取り消し処分になります。

著しい交通の危険があると見なされた場合の罰則

交通の危険をともなうあおり運転・妨害運転の中でも、著しく交通の危険があると見なされた場合の罰則は内容が異なります。例えば、高速道路で他の車を停止させるなど重大事故につながる危険を生じさせた場合などです。
5年以下の懲役、もしくは100万円以下の罰金に処されます。また、違反点数は35点となり、これまでの違反点数がない場合でも欠格期間3年の免許取り消しの処分になります。
あおり運転・妨害運転による事故で人を負傷させた場合は15年以下の懲役、死亡させた場合は1年以上の有期懲役に処されることがあります。

参考:あおり運転に対する罰則の創設と行政処分の整備|警察庁

自動車運送事業の監査方針について

国交省は、自動車運送事業者に対して輸送の安全確保が最も重要であるという基本的認識の下、監査を行っています。
監査方針には監査の実施方法や対象事業者、重点事項、悪質違反についてなどが記載されています。悪質違反の種類には、無免許運転や酒気帯び運転、過労運転などがありますが、2020年の改正で、あおり運転といった妨害運転も悪質違反の対象になりました。
事業用の自動車を運転している人があおり運転の対象となった場合、運転者は運転免許の取り消しと3年~5年以下の懲役または50万円~100万円以下の罰金を受けることになります。また、事業用の車両である以上、その運転者が所属している企業の責任も問われ、事業停止処分や監査が入る場合があります。
ここでは、自動車運送事業者への監査の内容や、そのほかの罰則について解説します。

あおり運転が監査の対象に

道路交通法の改正で妨害運転罪という項目が新たに加わり、あおり運転が厳罰化されました。これに伴い貨物自動車運送業者に対する妨害運転への行政処分の基準も強化されました。
あおり運転・妨害運転は悪質違反として事業停止処分の対象になります。運転者が妨害運転を行った場合、3日間の事業停止処分、あおり運転によって重大事故を発生させて場合は7日間の事業停止となります。いずれの場合も、事業者が指導や監督を行っていないことが明らかとなった場合に課されます。
取り締まりが強化されていくにつれて、あおり運転を意図せずに行った幅寄せや追い越しなどがあおり運転と見なされてしまう可能性があります。そのため、事業者は日頃から安全運転についての教育や指導を行い、妨害運転を未然に防ぐ必要があります。

運行管理者資格者証の返納命令を受ける可能性あり

事業用の自動車であおり運転・妨害運転を行った場合、運行管理者への処分として運行管理者資格者証の返納命令を受けることになります。
また、運行管理者資格者証を持つ者が事業用の自動車で妨害運転をして摘発された際は、即座に運行管理者資格者証の返納命令処分を受けます。返納命令を受けた人は、5年間運行管理者の資格を取得できなくなるので、事業の運営そのものに影響してしまいます。

参考:https://www.shiga-ta.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2020/10/ef74d77010bd52012ca2912b46e37a1d.pdf
「あおり運転」は犯罪です!一発で免許取消し! | 暮らしに役立つ情報 | 政府広報オンライン (gov-online.go.jp)

あおり運転のトラブルを防止するために導入すべきツール

あおり運転・妨害運転をしてしまうとさまざまなペナルティを受けることになるので、事業者にとっても運転者にとっても避けなければいけません。
あおり運転のトラブルを未然に防ぐために、運行管理システムやドライブレコーダー、業務用車載器などのツールを導入することも一つの方法です。
各ツールの特徴を紹介しますので、用途に合わせたツール選びにお役立てください。

運行管理システム

運行管理システムは、本部と運転現場をダイレクトでつないで、本部からタイムリーにマネジメントができるツールです。運行業務に関する機能が豊富ですが、それ以外にも活躍する場が多いので、事業の効率化にもおすすめできるツールです。
運行管理システムの主な役割は、運行計画の作成や車両の管理などです。車両の運行状況を把握して、直接ドライバーへ指示を送ることができます。これによって、渋滞や事故などの交通情報に対して別ルートの提案ができるので、円滑な業務につながります。
あおり運転・妨害運転の抑止に役立つのが、安全運転管理の機能です。速度超過や急ブレーキなど運転者の癖や特性を本部に通知できるので、実際の運転傾向に沿った安全指導に生かせます。
運行管理システムは事務的な業務の役割もこなしてくれます。運行に関する業務日報や報告書、給与計算やシフト管理といった毎日継続して行う業務も効率化できるため、安全管理だけでなく業務時間と労力の削減ができます。

ドライブレコーダー

ドライブレコーダーは、ここ数年で事業用の車両への取り付けも増加傾向にありますが、あおり運転が社会問題となったことでさらに需要が高まっているツールです。事故が発生した際、ドライブレコーダーに記録されている映像をもとに現場検証や取り調べを行うことも少なくありません。
ドライブレコーダーを取り付けるメリットは、事故が発生した時だけではありません。運転がみられているという意識が働き、あおり運転・妨害運転の抑止が期待できます。また、運転中に危険だと感じた場面を後から見直すこともできるので、運転技術の向上につながります。ドライブレコーダーの中には、車間距離が詰まると警告してくれる機能を備えたものもあり、安全運転を助けてくれます。
ドライブレコーダーは、機種によってカメラの角度や記録する画質などが異なります。そのため、事業で使用する車両の大きさに応じて選ぶのがポイントです。また、長距離の移動や出先での駐車時間が長い場合は、駐車監視機能がついたドライブレコーダーを選択するのがおすすめです。
価格が安く手に入りやすいのもドライブレコーダーの魅力です。画質に優れており、機能が豊富であれば高額になりますが、最近では低価格モデルでも高性能なドライブレコーダーが増えているので、所有している車両が多い場合やなるべく導入コストを抑えたい場合に有効です。

業務用車載機

位置情報を取得できる業務用車載機の導入もおすすめです。
業務用車載機では、通常のカーナビとしての機能の他に、外部からルート検索を行うこともできます。ドラレコやデジタコなどの車載器操作の集約や、作業実績の記録・管理機能などをカスタマイズできます。運転者が運転する車両が固定されていない場合、車載器操作をまとめることで操作がしやすくなります。
業務用車載機は、安全支援の機能も充実しています。事前に事業者が保有している情報を地図上に常時表示させることで、回避したいルートの表示や、大型施設への進入ルートを表示することができます。大型商業施設や大型倉庫などは、トラックの搬入口やお客様専用の入口など進入ルートがいくつかにわかれていることが多いので、地図上に表示することで、安全に誘導ができます

乗務員教育記録簿を作成することも重要

あおり運転によるトラブル防止には、乗務員教育記録簿を作成することも重要です。運転者に対して安全指導を行った場合は、その指導内容を記録して保管しておくことで、安全対策を実施した証拠として監査などの際に活用できます。
あおり運転が実際に摘発され国土交通省の指導対象になってしまうと、事業者に事業停止処分が下ってしまうため、事業を滞らせないためにも必ず安全指導の記録を残して保管しておきましょう

まとめ

この記事では、あおり運転防止に向けて事業者が導入すべきツールについて解説しました。
あおり運転に対する罰則が強化されています。運送事業を行う際にはどのような運転があおり運転と見なされるのか、その罰則の内容はどのようになっているのかを確認しておきましょう。
日頃からあおり運転防止に努めることが大切です。社内であおり運転によるリスクを共有しておくことで、安全に対する意識が向上します。事業者は監査方針を理解して、運転者への安全支援・指導を実施しましょう。
あおり運転のトラブルを防止するために、業務用車載器などのツールの導入もおすすめです。