令和4年の道路交通法施行規則改正により、安全運転管理者の選任義務違反時の罰則が強化されました。安全運転管理者の行う業務内容も拡大されているため、企業は改正内容を把握し適切な運用を行う必要があります。 本記事では安全運転管理者とは何か、業務内容や選任条件、安全運転管理者の選任が必要な事業所の条件や違反時の罰則などを解説します。
1.安全運転管理者とは事業主に代わり安全運転管理をする者のこと
1-1.副安全運転管理者とは安全運転管理者の業務を補助する者のこと
1-2.安全運転管理者の選任は事業所単位で必要
2-1.運転者の適性把握
2-2.安全運転確保のための運行計画の作成
2-3.長距離・夜間運転時の交替運転者の配置
2-4.異常気象時の安全確保の措置
2-5.点呼等による安全運転の指示
2-6.運転日誌の備え付けと記録
2-7.酒気帯びの有無の確認
2-8.酒気帯び確認内容の記録・保存
2-9.運転者に対する安全運転の指導
3-1.副安全運転管理者の選任が必要な台数
3-2.0.5台で換算する車両
4-1.安全運転管理者の必須要件
4-2.安全運転管理者の除外要件
6-1.必要書類
6-2.届出方法
6-3.安全運転管理者の解任や変更時も届出が必要
8-1.未選任時は50万円以下の罰金
8-2.選任の届出漏れには5万円以下の罰金
8-3.安全運転管理者を選任しないリスク
安全運転管理者とは事業主に代わり職場で自動車の安全運転を確保するために、さまざまな業務を行う者のことです。安全運転管理者の選任は一定台数以上の自動車を保有する事業所に求められ、条件を満たした時は業種にかかわらず管理者を選任しなければいけません。選任される管理者も年齢や実務経験年数、過去に違反がないことなど複数の要件を満たすことが定められています。
令和3年の道路交通法施行令の改正により安全運転管理者の業務内容は拡充し、令和4年からは罰則規定も強化されたため、企業は早急に制度に即した安全運転管理制度の実施を行う必要があります。
一定の要件を満たす事業所では、安全運転管理者の業務を補助する副安全運転管理者の選任も必要です。補助役とは言え業務内容は安全運転管理者と違いはなく、不在時などは代わりに業務を行う必要があります。
安全運転管理者の選任は企業全体ではなく、それぞれの事業所単位で選任する必要がありますので注意しましょう。選任後は、事業所を管轄する公安委員会に届けを行います。
安全運転管理者の業務内容として、国家公安委員会が公表する交通安全教育指針や内閣府令で定める安全運転管理業務に則り、以下のことを行います。
従業員の運転適性や技能、知識、道路交通法などの法令を遵守しているかを把握するための措置を取ります。
速度違反や放置駐車違反、過積載の防止、過労運転の防止など安全運転確保のための運行計画を作成します。
長距離運転や夜間運転は疲労により安全運転ができない恐れがあるため、あらかじめ交替する運転者を配置します。
異常気象や天災などで安全運転の確保が難しいと判断される時は、運転者に対し必要な指示を出したり、安全運転の確保のための措置を講じたりします。
従業員に点呼を行い、自動車の運行前点検の実施状況、過労や病気ではないか、正常な運転ができるかを確認します。併せて安全運転の確保に必要な指示をします。
運転の開始・終了の日時や運転者名、運転距離など必要事項を記録する運転日誌を備え付けて、運転を終了した運転者に記録させます。
運転前・運転後の従業員に対し、目視などで酒気帯びの有無を確認します。令和4年4月1日施行の道路交通法施行規則により追加された業務です。
酒気帯びの確認の結果は、1年間保管が必要です。令和4年4月1日施行の道路交通法施行規則により追加された内容です。
運転する従業員に対し、交通安全教育指針に基づく教育や運転に関する技能・知識、安全運転を確保するために必要な事項を指導します。
出典:安全運転管理者等法定講習 警視庁 (tokyo.lg.jp)
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安全運転管理者の選任が必要か否かは、自動車の種類や所有台数などにより、以下のように異なります。(※)
上記に該当する場合、安全運転管理者の選任が必要です。
副安全運転管理者の選任は、乗車定員数や車種に関係なく自動車の使用台数が20台以上である場合、以降20台増加するごとに副安全運転管理者も1人ずつ選任しなくてはいけません。例えば、20台以上40台未満であれば1名、40台以上60台未満であれば2名の選任が必要です。(※)
大型自動二輪車や普通自動二輪車は台数を計算する際、それぞれ0.5台で換算します。また、総排気量が50cc未満の一種原付は台数に含みません。(※)
※出典:福岡県警察 安全運転管理者制度 (pref.fukuoka.jp)
安全運転管理者や副安全運転管理者を選任する際は、以下の資格要件を満たす者でなければいけません。
安全運転管理者は、年齢は20歳以上(副安全運転管理者は30歳以上)で、都道府県によっては以下の要件が加わります。(※)
実務経験が2年以下の者を選任したい場合、公安委員会が行う教習を修了する(自動車の管理経験が1年以上の者のみ)、または公安委員会の個別の認定を受けるなどの方法もあります。詳しい内容は所管の公安委員会に確認が必要です。
安全運転管理の業務の性質上、課長相当以上の役職者が望ましいとされています。
※出典:安全運転管理者等の資格要件|静岡県警察 (pref.shizuoka.jp)
安全運転管理者の除外要件もあります。安全運転管理者の要件を満たしていても、公安委員会の解任命令により解任された日から2年を経過していない従業員は選任できません。
また、ひき逃げや酒酔い運転等、過労運転や放置駐車の容認行為、妨害運転に係る罪など、法令や安全運転義務に違反した日から2年を経過していない者も除外されます。詳細は警視庁のホームページを確認してください。(※)
※出典:安全運転管理者等法定講習 警視庁 (tokyo.lg.jp)
副安全運転管理者は年齢が20歳以上で、都道府県によっては以下の条件にも該当する者であれば選任できます。(※)
上記に当てはまらない者を選任したい場合、公安委員会に同等以上の能力があると認められなければいけません。自動車の運行を直接管理する係長や相当職以上にある役職者が望ましいです。副安全運転管理者の除外要件は、安全運転管理者と同様です。
※出典:安全運転管理者等の資格要件|静岡県警察 (pref.shizuoka.jp)
安全運転管理者等の選任は、任意ではなく道路交通法第74条の3第1項、第4項に定められた義務です。要件に該当する事業所では、適切な人数の安全運転管理者を選任しなければいけません。(※1)また民法715条では、従業員が業務中に起こした事故は、使用者である企業も賠償責任を負うこととされています。(※2)
悲惨な交通事故が起きれば、被害者はもとより事故を起こした従業員の将来も左右するでしょう。事故防止を徹底していなければ、雇用する企業の信頼失墜にもつながります。企業と従業員の双方を守るためにも、安全運転管理者を適切に配置するのはもちろん日頃の業務から安全運転の徹底が必要不可欠です。
(※1)出典:e-Gov法令検索「道路交通法(第74条の3第1項、第4項)」道路交通法 | e-Gov法令検索
(※2)出典:e-Gov法令検索「民法(第七百十五条)」民法 | e-Gov法令検索
事業所で安全運転管理者を選任した後は、15日以内に事業所を管轄する警察署経由で公安委員会に届出が必要です。
安全運転管理者等の選任や変更の届出には以下の書類が必要です。(※)ただし都道府県によっては追加で必要な書類などもあるため、提出前に必ず各都道府県警察のホームページをご確認ください。
また以下に該当する場合、別途居住証明書を作成し提出しなければいけません。書式は任意です。
届出方法は所轄警察署の交通課窓口に直接持参します。令和4年1月4日から電子申請も対応可能となりましたが、郵送やFAXでは受け付けていません。詳しい方法は各都道府県警察のホームページを確認してください。
安全運転管理者は選任時だけでなく、解任や安全運転管理者などに変更があった時も届出が必要です。具体的には以下のとおりです。
それぞれ届出様式や必要書類が異なるため、事前に確認し手続きを行いましょう。
安全運転管理者は年に1回、公安委員会が実施する安全運転管理者等講習の受講が必要です。受講通知書が送られてきたら、日程を確認し安全運転管理者本人が受講します。代理受講は認められていないため注意しましょう。近年は会場講習の他、オンライン講習の選択も可能です。実施する都道府県により異なることもあるため、前もって確認しましょう。
受講時間は6時間程度で、受講手数料は以下のとおりです。(※)手数料は当日持参ではなく、事前納付が必要なこともあります。収入印紙での支払いが必要なところもあるので、受講間近になって困らないように確認しておきましょう。
※出典:警視庁「安全運転管理者等法定講習(安全運転管理者等に関するよくある質問)」qa.pdf (tokyo.lg.jp)
会場で安全運転管理者等講習を受ける際は、以下のものを持参します。
講習終了後は、安全運転管理者手帳に講習修了の証明がされます。
以前は安全運転管理者を選任しなかった場合5万円以下の罰金が、選任しても届出をしなかった場合2万円以下の罰金がそれぞれ課されていました。令和4年の道路交通法改正により、安全運転管理者の選任にかかわる罰金額が引き上げられています。(※)
令和4年10月1日以降、以下に当てはまる場合50万円以下の罰金が科される恐れがあります。(※)
※出典:徳島県警察 安全運転管理者制度について (pref.tokushima.jp)
道路交通法改正により、選任または解任から15日以内に公安委員会に届出をしなかった場合、5万円以下の罰金が科される恐れがあります。(※)
※出典:徳島県警察 安全運転管理者制度について (pref.tokushima.jp)
安全運転管理者制度の運用や罰則が強化された背景には、2021年6月、千葉県八街市で発生した八街児童5人死傷事故が挙げられます。同事故では、元運転手の呼気から基準値を超えるアルコールが検出されたこと、事業所は選任要件を満たしているにもかかわらず、安全運転管理者が未選任であったことが問題視されました。
事件後、道路交通法や道路交通法施行規則が改正され、罰則も強化されました。今後、安全管理を怠り同様の事故が発生した場合、世間から事故を起こした企業に向けられる目はより厳しいものとなるでしょう。損害賠償訴訟でも不利になるだけでなく、事業の継続が困難になるほど社会的信用を失うリスクもあります。
安全運転管理者業務を効率化するためにも、通信型ドライブレコーダーの搭載により、運転日報やアルコールチェックなどの必要な項目を一元管理できるシステムの導入がおすすめです。通信型ドライブレコーダーによっては運転中も危険挙動を検知し、逐一ドライバーに音声やアラームで警告できます。車両の位置をリアルタイムで把握できるため、万が一事故や災害に巻き込まれた時もスムーズな指示ができ、従業員の安全を確保しやすくなります。
安全運転管理とは、事業所で安全運転にかかわる教育や指導を行い、従業員の安全を確保する業務のことです。安全運転管理者の選任の必要性は、車種や車両台数によっても異なります。安全運転管理者制度の罰則も強化されており、改正法に則った管理方法の導入やシステムの見直しも必要です。
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