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アルコール検知器専門メーカー、中央自動車工業に聞く選び方と活用アドバイス

2022年4月より、改正道路交通法が施行され、安全運転管理者選任事業所(白ナンバー車両を一定数使用する場合、選任義務が発生)は、安全運転管理者によるアルコールチェックが必要になりました。法律は段階的に施行され、安全運転管理者の業務として、2022年4月からは運転前後の運転手の状態を目視等で確認し、その記録を1年間保管することが義務付けられ、さらに2022年10月*からはアルコール検知器を用いての確認が義務付けられます。そこで注目が高まっているのがアルコール検知器です。これから手に入れなければならないと思っている。または急遽手に入れたものの、アルコール検知器の種類や正しい活用法について疑問がある方も多いのではないでしょうか。 今回はアルコール検知器製造の大手メーカー、中央自動車工業の営業開発部の高橋智也さん、三井剛正さん、商品開発部の波川啓土さんに、アルコール検知器について伺い、導入や活用にあたってのアドバイスもいただきました。

*取材時は2022年6月30日。同年7月14日に「半導体不足などから、10月1日までに市場が求める台数の確保は不可能」という訴えから、警察庁より開始時期を予定していた「10月1日」からの延期を検討。パブリックコメントを募集し検討した結果、アルコール検知器を用いた酒気帯び確認の義務化は無期延期されることになりました。(詳しくはこちらの記事もご参照ください)

目次

1.アルコール検知器の種類と、それぞれのメリット・デメリット

2.検品の具体的な方法は?

3.適格なアルコール検知器を導入するポイントは?

4.機種を使い方に応じて組み合わせることで、より柔軟に法律に対応できる

5.法律の施行を前にした、アルコールチェッカーの供給量について

6.アルコール検知器を導入する意義を知ろう

アルコール検知器の種類と、それぞれのメリット・デメリット

――アルコール検知器の、アルコールを感知するセンサーには2種類の方式があります。どのような方式なのでしょうか。


営業開発部の高橋さん

「まず、市場に出ているほとんどのアルコール検知器は、人間の呼気に含まれるアルコール濃度を計測するというものです。

呼気のアルコール濃度は検知器の中にあるセンサーで測りますが、そのセンサーの方式が2種類あるということです。ひとつが半導体式センサー式、そしてもうひとつが電気化学式(燃料電池式ともいう)です」(高橋さん)


中央自動車工業のアルコール検知器SOCIAC NEO

――半導体式、電気化学式の違いを教えてください。

「半導体式のセンサーは、その表面に付く酸素の量が人間の息がかかることで変動し、電気の抵抗値に影響を与える仕組みを使っています。飲酒をしている場合は酸素量が減少するため、電気抵抗値が低くなるのです。つまり電気抵抗値が低いほど体内のアルコール濃度が高いということになります。そういったことからアルコール濃度を割り出して示すのが、半導体式のアルコール検知器になります。

電気化学式センサーは人間の呼気に含まれるアルコール成分を燃料として、センサーの中で化学反応が起こる状態を作ります。そこで発生する電流の量を見て数値化します。電気の発生量が多いほど呼気中のアルコール濃度が高いということになります。それが電気化学式センサーの仕組みです」(高橋さん)

――半導体式、電気化学式の使用感の違いはあるのでしょうか。

「まず半導体式センサーは比較的薄い濃度のガス、いわゆる低濃度域に強いセンサーといえます。また構造は非常に小型にすることが可能です。製造コストも安いので安価に提供しやすい。反応速度も速いのでチェックに時間がかかりません。一方で半導体式のセンサーは個々にバラつきが出やすいという弱点があります。しかしこれは製造側の努力でカバーできる点です。あとはガムやタブレット、発酵食品の摂取後などアルコールに似たガスに反応してしまうことが稀にあります。

一方で電気化学式センサーは計測値のばらつきが少ないです。周囲の環境にも影響を受けにくい。安定性が高いわけです。しかし製造コストが高く、高価格になりがちなことや、測定にやや時間がかかることがデメリットです。」(高橋さん)

――中央自動車工業のアルコール検知器、「ソシアック(SOCiAC)」シリーズは半導体式の機種もラインナップにありますが、個々にバラつきが出やすいという弱点はどのように克服しているのでしょうか。

「出荷するまでの品質管理を徹底することで対応しています。半導体式センサーは製造直後は個体差が出ますが、その後どれだけ個体差を均す作業に費用と手間を掛けるかで品質に差が出ます。生産過程で組み上げてからガスを当てて、そのガスを記憶させるという作業において、バラつきが発生します。ですからバラつきをなくすために記憶と検品の過程を繰り返すことで、精度を上げています。

加えて私どもは出荷する前の全品検査をしています。具体的には決まった濃度のアルコールを感知させて、濃度の数字がずれていたら出荷しません。出荷ができなかったものはもう一度ガスを記憶させて精度を上げていく。そうやって精度の高いものだけを出荷しています」(高橋さん)


検品作業の様子

――半導体式のバラつきというのは、製造過程でのズレが起こりやすいということですね。使用しているうちにズレがおきてしまう。つまり計測値の信頼性に関わるということではないということでしょうか。

「はい。きちんと検品している業者から導入すれば、使用に際して問題ありません。問題が起こるとすれば、ガスを記憶させる過程が杜撰だったり、バラつきがあるものをそのまま出荷したりしてしまう業者の製品ですね。ですから購入業者は見極めていただきたいと思います」(高橋さん

検品の具体的な方法は?

――研究室に伺って、商品開発部研究開発グループの波川啓土さんに、検品の具体的な手順を説明していただきました。

「アルコール濃度を調節したガスを吹き付けて、実際に吹き付けた水分のアルコール濃度と同じ数値が出るかどうかを調べるというのが、検品の方法です。数段階の濃度のアルコールを吹き付けて、それぞれに検証していきます」(波川さん)


検品を行う装置

――どれぐらいの規模で検品を行っているのですか?

「毎日最大で2000個程のアルコール検知器を検品しています。アルコール検知器の信頼性を維持するためにも、必要なことです。

2015年に国民生活センターの調査により、品質に問題があるアルコール検知器が出回っていることが明らかになり、業者にも商品の個体差を減らすよう品質管理徹底を求める通達がありました。それを受けて、我々も検品による品質管理を更に厳格化しています」(波川さん)


中央自動車工業のアルコール検知器SOCIAC SC-103

 

 

適格なアルコール検知器を導入するポイントは?

――検品などの品質管理を適切に行っている業者は、どのように選べばいいのでしょうか。

「確かに業者によって提供するアルコール検知器の品質に差があるのが現状です。海外製品のなかには、失礼ながら玩具並みの品質しかないものも散見されます。


営業開発部の三井さん(左)、高橋さん(右)

そこで私たちは『アルコール検知器協議会』という業界団体を立ち上げ、第三者機関による品質基準と認定制度を策定し、品質を保証しております。協議会の認定品であれば、先ほど見て頂いたような検品作業を行っています。ですから、迷ったらそちらで認定されている機器から選んでいただければ安心だと思います」(三井さん)

――中央自動車工業は、「アルコール検知器協議会」では取締役の酒井規光さんが副会長を務めるなど、積極的に活動されています。

「中央自動車工業は2002年からアルコール検知器を製造しており、この業界の草分けと自負しています。

元々私たちは自動車部品の開発や販売を主な事業内容としている会社なので、自動車業界に身を置く者の責務として、交通事故を1件でもなくしたいとの思いがありました。

我々がアルコール検知器の開発を始めた2002年当時は、今よりも市場に出回っているものの品質が混沌としていた状況でしたので、本当に信頼できるアルコール検知器、安心して使っていただけるアルコール検知器を目指して「ソシアック」を開発した経緯があります。

また社会貢献の観点から、『アルコール検知器協議会』のような業界全体の質向上を目指す取り組みにも参加しています」(三井さん)

――「ソシアック」シリーズは多くの業界で導入されていますね。

「導入事例としては、現時点で当社が公表ている企業・官公庁・組合・協会など含めて3万以上の事例がございます。

当社の『ソシアックシリーズ』がご採用いただいている理由は、いろいろあると思うのですが、1番はメイド・イン・ジャパン、日本製だというところです。

検品は抜き取り検査ではなく全製品を実施するなど、品質管理も徹底しています。加えて例えば故障というケースでも、当社の場合は商品をお預かりしたら日本国内の工場で修理をしてご返却するという、アフターケアのスピード感があります」(三井さん)

――法令が施行されると、アルコール検知器が日々必要になるので、もしもの場合の素早いアフターケアが受けられるのは、頼もしいですね。修理のために海外に送って時間がかかるのも困りますし、故障してアフターケアを受けられずに買い直しになったりすればコストもかかります

機種を使い方に応じて組み合わせることで、より柔軟に法律に対応できる

――半導体式と電気化学式、用途によって使い分けが必要だったりするのでしょうか。

「半導体式と電気化学式の使い分け、というよりも携帯式か据置き型か、あるいは社員の何人かで共有するか個別に持つか、というところで使い分けが発生すると思います」(三井さん)

――直行直帰する人にだけ人数分配布して、残りの人は全員で1台を使うなどという方法が、考えられますね。

「そうですね。今後は法律に準じているかという観点からも検討しなければならないので、お客様の現状と法的な適正を考えあわせた運用のご提案が、必要になってくると思います。

当社は機種のバリエーションが多いので、状況に応じて『これとこれを組み合わせて使いましょう』というご提案が可能ですね」(三井さん

法律の施行を前にした、アルコールチェッカーの供給量について

――2022年の10月からはアルコール検知器を用いての確認が義務付けられます。しかし需要が多すぎてアルコール検知器が手に入らないという声も聞こえてきます。

「私たちも大分前から供給量を増やすために奮闘してきましたが、実際市場では手に入りにくい状況が続いてしまっています。

今回白ナンバー保有企業にアルコールチェックが義務化されるわけですが、対象の企業は現在警察庁から公表されているところでいうと、全国で約34万カ所、その管理下にある運転者は計約782万人だそうです。(参考:令和4年6月14日公表の令和4年版交通安全白書)既に利用が義務づけられている緑ナンバー保有事業者の数が約8万5千社程ですから、低く見積もっても4倍程の市場になっているということです。

そういった数量的なこともあり、さらに半導体不足だったり部品を輸入している先の物流がコロナ禍が原因で滞ったりといった、不測の事態があったことも影響しています」(三井さん)

――なるほど、当初想定してなかったアクシデントもあって、供給が困難な現状があるのですね。実際に必要な企業が期日までに手に入れられないという可能性はないのでしょうか。

「あり得るとは思います。現在もいろんな企業様から警察の方にアルコール検知器の入手方法について、問い合わせがある状況なのではないかと推察しています*」(三井さん)

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*取材時は2022年6月30日。同年7月14日に「半導体不足などから、10月1日までに市場が求める台数の確保は不可能」という訴えから、警察庁より開始時期を予定していた「10月1日」からの延期を検討。パブリックコメントを募集し検討した結果、アルコール検知器を用いた酒気帯び確認の義務化は無期延期されることになりました。(詳しくはこちらの記事もご参照ください

アルコール検知器を導入する意義を知ろう!

――アルコールチェックが法律で義務化されることに注目が集まっていますが、その本来の目的は交通事故の防止です。中央自動車工業の社員の皆さんは、安全運転や飲酒運転に関して、どのような意識を持っていますか?

「僕はもう10年以上本社にいるのですけど、昔は誰か人が入ったとき、抜けたときに会社全体で飲み会がありました。現在はコロナ禍でほとんど行っていませんが……。

ただしコロナ禍前にも、アルコール検知器の開発にともなう意識の高まりとともに、飲ませる側が無理に相手に飲ませなくはなったと感じていました。現在は飲ませた方の責任も非常に重いものがありますし。飲酒運転に関する知識が付くにつれて、意識が変わってきたのを感じます」(高橋さん)

――前日夜の飲酒が次の日に残っていても、アルコール検知器が反応します。夜の飲み会にも慎重になりますね。いったいどれくらいのお酒を飲むと、翌日にお酒が残ってしまうのでしょうか。

「一般的に言われていることとしては、ビールなら500ml(およそ中ジョッキ1杯)で大体分解するのに4時間ぐらいと言われています。当然個人差はあるのですが・・・。

それを目安に今から8時間後に車を乗るとなったら、多くても中ジョッキ2杯までを目安にするといった自制が必要になります。

思ったよりアルコールが残るので、アルコール検知器で測るとびっくりする方もいるかもしれません。前夜のお酒が残っているかどうかをチェックするというのも、アルコール検知器の大きな意義だと思います。

昨今は当日にお酒を飲んで運転するような人は稀だと思いますが、残酒に関してはまだ意識が低いのではないでしょうか。精度の高いアルコール検知器を使うことでそれが可視化されると、皆さんの意識も変わってくると思います」(三井さん)

――お酒は人の嗜好に関わる部分もあり、「飲みすぎではないかな?」「素面ではないのかな?」と思っても、他人が指摘するのが難しい部分もあります。アルコール検知器を導入することによって、話題化しやすい状況が作れそうですね。

「数値化されることで、飲酒にまつわるコミュニケーションがしやすくなる場面もあると思います。飲みすぎてしまうシチュエーションとしては、仕事上のお酒の付き合いが一番多いのですが、そんな時は次の日にアルコール検知器を使うということを予め伝えれば、相手の方も分かってくださるのではないでしょうか」(三井さん)

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飲酒は長年行われていた慣習であり、人によってアルコールが顔色や言動に現れる度合いが違うことから、許容するラインが曖昧にされてきた経緯があります。しかし顔に出ていなくても、身体にアルコールが残っていれば判断力に影響が出てしまうことは、様々な飲酒事故が証明しています。

アルコール検知器で体内のアルコール濃度を可視化することによって、節度ある飲酒の基準が社会的に認知されれば、それが道路の安全にもつながるはずです。

改正道路交通法の施行をきっかけに、お互いの飲酒行動を見守り、安全運転について再確認してみませんか。