酒気帯び・酒酔い運転は法律違反に当たるのはもちろん、悲惨な交通事故につながりかねないので絶対に行ってはいけません。従業員が社有車や営業車を使って業務にあたるのであれば、酒気帯び・酒酔い運転が起こらないよう、会社としても社員教育やチェック機能を整えることが大切です。 万が一、このような酒気帯び運転や酒酔い運転で従業員が捕まってしまった場合、会社にはどのような影響があるのでしょうか。本記事では、酒気帯び運転、酒酔い運転の罰則と会社への影響を解説します。
1-1.酒酔い運転は罰則が厳しい
1-2.酒気帯び状態で人身事故を起こすと危険運転致死傷に問われる
3-1.就業規則に懲戒処分の規定が記されている
3-2.従業員が懲戒処分に値する行為で処分内容が適切である
3-3.懲戒処分をするまでに適切な手続きを踏んでいる
4-1.お酒を勧めた場合の罰則
4-2.飲酒を知りながら車を貸したケース
4-3.従業員が業務中に酒気帯び運転で交通事故を起こしたケース
5-1.酒気帯び運転についての従業員教育を徹底する
5-2.酒気帯び運転を防止する体制を構築する
5-3.酒気帯び運転による処分を明確化する
まずは、酒気帯び運転で捕まってしまった場合の罰則について把握しておきましょう。
酒気帯び運転で捕まると、3年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金が科せられます。(※1) 酒気帯び運転の基準となる呼気中のアルコール濃度は、呼気1リットルあたり0.15ミリグラムです。これは、ビールであれば中瓶1本、日本酒であれば1合、焼酎は0.6合を飲んだ場合に相当します。(※2)
しかし、呼気中のアルコール濃度は人によって異なるため、ビールの中瓶1本以下であっても酒気帯び運転になってしまう人もいるかもしれません。
酒気帯び運転は罰則以外にも違反点数も定められています。酒気帯び運転での違反点数と行政処分は、呼気中のアルコール濃度によって次のとおり異なります。(※3)
呼気1リットルあたりのアルコール濃度 |
違反点数 |
行政処分 |
アルコール濃度0.15ミリグラム以上 |
13点 |
免許停止処分(90日) |
アルコール濃度0.25ミリグラム以上 |
25点 |
免許取消し2年 |
なお、違反点数と行政処分は、前歴やその他の累積点数がない場合の点数と処分内容です。前歴やその他の累積点数があれば、より高い点数が加算されます。
酒気帯び運転は呼気中のアルコール濃度で判断されますが、数値とは別にアルコールの影響で正常な運転ができないと判断されると酒酔い運転を疑われるかもしれません。また、人身事故を引き起こしてしまうと危険運転致死傷に問われます。
(※1)参考:警視庁「飲酒運転の罰則等」
(※2)参考:公益社団法人アルコール健康医学協会「飲酒運転防止」
(※3)参考:愛知県警察 「運転免許に関すること(Q9 飲酒運転の違反をしてしまいました。私の行政処分はどうなりますか?)」
酒酔い運転はさらに厳しい罰則が科されます。酒酔い運転はアルコール濃度とは関係なく、次のような状況から正常に運転できない状態です。 ふらついてしまい直線を歩けない 視覚が健全に動いていない 運動や平衡感覚機能が麻痺している 認知能力がなくなっている 呼気中のアルコール濃度が0.15ミリグラム以下であっても、これらの状態に該当する場合は酒酔い運転とみなされることがあります。
酒酔い運転の罰則は5年以下の懲役または100万円以下の罰金で、違反点数は35点です。(※) 酒酔い運転の違反点数は前歴や違反点数の累積の有無にかかわらず、一発で運転免許停止となります。
免許の交付停止期間も最短3年なので、酒酔い運転で検挙されると、その後運転を伴う業務につくのはかなり厳しくなるでしょう。酒酔い運転はそれだけ重い罪なのです。
※参考:警視庁「飲酒運転の罰則等」
飲酒している状態で人身事故を引き起こしてしまった際に問われるのが、危険運転致死傷です。危険運転致傷では、次のような罰則(※1)と違反点数(※2)が科せられます。
罪状 |
罰則 |
違反点数 |
行政処分 |
危険運転致死 |
15年以下の懲役 |
62点 |
免許取消し8年 |
危険運転致傷 |
12年以下の懲役 |
最大55点 |
免許取消し最長7年 |
(※1)参考:警視庁「『自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律』が施行されました(平成26年5月20日から)」.
(※2)参考:茨城県県警 「運転免許証の欠格期間」
従業員が酒気帯び運転で捕まってしまった場合、該当の社員は最長で23日間身柄が拘束されるため、その間会社には出社できません。(※)従業員の役職や仕事内容によっては、企業にとっても大きな影響が出る恐れがあります。
逮捕~検察への送検 |
検察の勾留請求 |
勾留~起訴 |
起訴までの |
48時間(2日) |
24時間(1日) |
20日以内(原則10日、 |
最大23日 |
会社は弁護士らを通じて従業員自身の意向を聞き、必要であれば欠勤期間を有給休暇消化にあてます。また、休職制度を設けている会社であれば休職として扱うことが可能です。
※参考:e-Gov 「刑事訴訟法」
従業員が酒気帯び運転で捕まってしまった場合、仕事や会社にも大きく影響を与えかねません。酒気帯び運転は刑事処分に値する重い罪なので、状況によっては会社の信用に関わり、その責任として従業員を懲戒処分することもあり得ます。
一般的に懲戒処分対象となるケースには、次のようなものがあります。
一方、運転が事業の中核ではない場合や該当の従業員が運転とは関係ない業務に従事している場合、軽微な酒気帯び運転の場合は、懲戒処分は難しいとされています。なお、懲戒処分に値するような酒気帯び運転であっても、懲戒処分を従業員に言い渡すには、一般的に次のような要件を満たす必要があります。
これらの要件について、詳しく見ていきましょう。
就業規則に懲戒処分の規定が記されていなければ、懲戒処分することはできません。また、就業規則に記載されているだけでなく、その就業規則を従業員にきちんと周知させている必要もあります。
従業員の行為が、就業規則に記載された懲戒処分の規定に値するかどうかを確認します。懲戒処分とその処分内容が、客観的に合理的な理由を欠いて、社会通念上相当であると認められない場合は、懲戒処分も認められません。
会社によっては、就業規則に懲戒処分決定までのプロセスを規定しているケースがあります。例えば、従業員に弁明の機会を与え、懲戒委員会で処分を決定するというプロセスを規定している会社であれば、このプロセスに則る必要があります。もし就業規則に懲戒処分決定までのプロセスを明記していない場合であっても、該当の従業員に弁明の機会を与えるようにしましょう。
従業員がプライベートで酒気帯び運転をした場合、会社は社会的信用を落とす可能性はあっても、責任を問われることはありません。しかし、会社側が翌朝に業務で運転しなければならない従業員にお酒を勧めたり、飲酒していることを知りながら社有車を貸したりした場合は、会社や代表者も責任を問われます。
酒気帯び運転の罰則の対象になるのは運転手だけではありません。お酒を勧めた人も対象です。例えば、飲食後に車に乗ることが分かっている従業員に対して、お酒を勧めてしまうと次のような罰則が科せられます。(※)
お酒を勧めていなくても、飲酒した従業員の車に同乗した場合も同様の処罰となります。
※参考:警視庁「飲酒運転の罰則等」
従業員が飲酒していることを知りながら社有車や自家用車を貸した場合、次のとおり運転手と同じ罰則が代表者や運行管理責任者に科せられます。(※)
※参考:警視庁「飲酒運転の罰則等」
従業員が業務中に酒気帯び運転や酒酔い運転で交通事故を起こしてしまった場合、会社は使用者責任を問われます。また人身事故であれば、運行供用者責任も問われるかもしれません。使用者責任や運行供用者責任を問われた場合、会社は従業員が起こした交通事故による損害賠償を支払う責任があります。
酒気帯び運転は、従業員にとっても会社にとっても絶対にあってはならない行為です。そのため、次のような取り組みによって酒気帯び運転の防止に努めましょう。
それぞれの対策について、詳しく解説します。
酒気帯び運転を減らすためには、従業員に対しての教育を徹底しましょう。中には飲酒運転や交通事故の恐ろしさに対する意識が低い従業員がいるかもしれません。そのような従業員には、罰則の重さや酒気帯び運転で捕まった際の周囲への影響などを伝えて、コンプライアンスの意識を高めていきます。
また、お酒が運転にもたらす影響について車を運転しない従業員にも理解してもらうことが効果的です。飲酒した状態を体験できるゴーグルやメガネを活用することで、酒気帯び運転の危険性を理解してもらえ、無理な飲酒を勧めるような飲酒運転を軽視する風土が改善できます。
飲酒してもアルコールが体内から完全に抜けていれば運転は可能です。一般的に1時間で分解できるアルコールの量は、体重×.01g程度とされています。(※1) つまり、70kgの人であれば1時間に約7g、80kgの人であれば1時間に約8gのアルコールを分解できるとされています。例えば70kgの人が、適正飲酒量である純アルコール量20gを分解する場合、アルコールを分解するのには約3時間必要です。(※2)
しかし、アルコール分解のスピードは遺伝や飲酒習慣によって大きく変わります。そのため、従業員にはアルコール分解に必要な時間を経過したからといって、すぐに運転するのは避けるように伝えることが大切です。
(※1)参考:厚生労働省「アルコールの吸収と分解」
(※2)参考:広島県 「純アルコール量を計算してみましょう」
従業員に酒気帯び運転の危険性について伝えると同時に、酒気帯び運転を防止する体制を構築することが重要です。例えば、運転の前にはアルコールチェッカーで体内のアルコール濃度を計測する方法が有効です。また、新年会や忘年会などの飲み会では、数名の従業員をハンドルキーパーに任命することで酒気帯び運転対策になります。ハンドルキーパーはお酒を飲まないため、参加費を免除にするなどの工夫を凝らしてみましょう。
アルコールチェッカーでの飲酒状況のチェックは、以下のどちらかに当てはまる事業者に対して義務化されました。(※1)
今後、社有車が5台以上になる予定がある会社は、安全運転管理者を選任して、運転前後には以下のようなアルコールチェックと管理を行う必要があります。
(※1)参考:警察庁「時間の取組強化! - 飲酒運転根絶」
(※2)参考:警察庁「安全運転管理者の業務の拡充等」
従業員が酒気帯び運転をした際の処分を明確にすることも、酒気帯び運転の防止には効果的です。業務中に飲酒して酒気帯び運転をした際は、懲戒処分もやむを得ません。 酒気帯び運転を防止するには、プライベートでの処分の対象となる可能性があることを、就業規則や労働契約書に記載して、従業員に周知しましょう。
実際に処分できるかどうかは次のような点を考慮する必要があります。
酒気帯び運転で捕まってしまった場合、3年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金が、呼気中のアルコール濃度に応じた違反点数が科せられます。また、アルコール濃度に関係なく正常な運転ができないと判断された場合は、酒酔い運転として5年以下の懲役または100万円以下の罰金、さらには35点の違反点数が発生します。 従業員が酒気帯び運転で捕まってしまった場合、会社もさまざまな対応を迫られたり、損害賠償を支払ったりしなければなりません。日頃から従業員教育の一環として、運転する・しないに関わらず飲酒運転の危険性の啓蒙や、酒気帯び運転による処分を明確にするなどの対策を講じましょう。
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