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2024年問題とは?物流業界に生じる問題や対策を解説

物流業界に身を置く人であれば、ドライバーの時間外労働時間の上限規制によって発生する「2024年問題」はご存じかと思います。では、2024年問題によって何が起こるのか、発生した課題にはどう対処したらよいのか、問題を解消あるいは軽減するにはどうしたらいいのか。わかりやすく解説します。

目次

1.2024年問題とは

2.2024年問題における物流業界の課題

2-1.長時間労働・低賃金
2-2.EC市場の拡大による物流量の増加
2-3.ドライバーの高齢化
2-4.積載効率の低下

3.2024年問題に向けて講じるべき物流業界の対策

3-1.「簡素で滑らかな物流」に対する施策
3-2.「担い手にやさしい物流」に対する施策
3-3.優先してとるべき対策は3点
3-4.多様な人材の受け入れ体制整備

4.まとめ

 

2024年問題とは

2024年問題とは、2024年4月1日から施行されるドライバーの時間外労働時間の上限規制によって発生するさまざまな問題のことです。

物流業界ではドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限されるため、運送業者・荷主・ドライバーの3者に次のような問題が起こり得ます。

【運送業者】
・従来の売り上げ、利益を確保できなくなる
・利益率が下がることにより、運賃を値上げせざるを得なくなる
・ドライバーの収入が減り、離職につながる

【荷主】
・運賃が上昇する

【ドライバー】
・従来より勤務時間が減り、収入が減少する

時間外労働の上限規制は、働き方改革の一環としてすでに一般則として大企業・中小企業で施行されていますが、ドライバーは2024年度にスタートします。

時間外労働時間の上限となる年間960時間(月換算でおよそ80時間)は一般則の上限720時間より多いものの、もともと深刻なドライバー不足に陥っている物流業界にとって、実現にあたって課題の多い数字です。

しかし、時間外労働時間の上限規制に違反した場合には罰則が設けられており、6か⽉以下の懲役または30万円以下の罰⾦が科される恐れがあります。罰則がある以上、企業は何としても上限を守らなければなりません。

さらに、ドライバーの時間外労働上限はさしあたって960時間と設定されていますが、将来的には一般則の720時間の適用が目指されています。将来的にはドライバーの労働時間がより減少することを踏まえて、業務効率化・業務改革を急ぐ必要があります。

ここで、物流業界が抱えるこの2024年問題では具体的にどのような点が課題かを見ていきましょう。

 

2024年問題における物流業界の課題

2024年問題における物流業界の課題としては、次のようなものがあります。

長時間労働・低賃金

物流業界では、しばしば長時間労働・低賃金が問題となります。

ドライバー不足に頭を悩ませる経営側からすれば、ドライバーには本人が可能な限りの労働を期待したくなるものです。しかし中長期的な目で見れば、コンプライアンスを確保した労働時間・賃金を設置することで、人材を確保しやすくなり、経営の安定化を図ることができます。

EC市場の拡大による物流量の増加

今や、スマホをタップするだけで簡単に買い物ができる時代です。
EC市場が拡大・成熟するにつれ、利用者もどんどん増加しています。

それにともなって企業は、サービスの内容だけでなく、物流のスピードや品質においても競争を加熱させています。消費者にとって、スピーディかつ安定して商品が届くことが当たり前になっている今、ドライバー不足を感じている企業もまた増加傾向にあります。

ドライバーの高齢化

高齢化社会である日本では、物流業界で働くドライバーもまた高齢化しています。
国土交通省によると、物流業界で働くドライバーの約45%は40~54歳であり、29歳以下の若年層は全体の10%以下とされています。

主戦力である層が一斉に定年となれば、ドライバー不足はさらに深刻化します。

積載効率の低下

輸送効率を表す指標の一つである積載効率は、従来より低く(悪く)なっているといわれています。国土交通省の調査によると、1990年の時点では55%程度でしたが、2009年には40%を切っています。

その理由の一つとして、消費者が輸送を必要とする手段で購入する商品のニーズが多様化していることがあります。

「従来はスーパーで購入するのが当たり前だった日用品や生鮮食品などをインターネットを介して購入するようになった」「ECサイトでの送料が無料になったことで、少量の商品を高い頻度で購入する人が増えた」などの理由で、配送日・時間帯のばらつきが起こり、積載効率の低下が起こっています。

ドライバーの経験不足をカバーするための取り組みについてはこちらをご参照ください。
 

2024年問題に向けて講じるべき物流業界の対策

では、これらの課題に対しての対策を、国土交通省が2021年に公表した「最近の物流政策について」を基に考えてみましょう。

この資料のなかで、国土交通省は「我が国が直面する課題」の一つとして「生産年齢人口減・ドライバー不足(2024年問題等)」を挙げ、次のような対策を提示しています。

物流DXや物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化(簡素で滑らかな物流)

施策概要:労働力不足とコロナ渦を受けた新しい生活様式に対応する施策として「DXの推進」によって「ムリ・ムラ・ムダ」をなくす

②労働力不足対策と物流構造改革の推進 (担い手にやさしい物流)

施策概要:生産年齢人口の減少と2024年問題を受けて労働環境の整備、共同配送、多様な人材を受け入れられる職場環境の整備を行う

③強靭で持続可能な物流ネットワークの構築(強くてしなやかな物流)

このうち「①簡素で滑らかな物流」と「②担い手にやさしい物流」は2024年問題の解消に向けた施策となっていて、経営の方向性・優先して取り組むべき施策の策定においてヒントとなるでしょう。

「簡素で滑らかな物流」に対する施策

「簡素で滑らかな物流に対する施策」を実現するには、労働力不足とコロナ渦を受けた新しい生活様式に対応する施策として「DXの推進によってムリ・ムラ・ムダをなくすこと」が注目されています。

具体的には、次のような内容です。

・書面の電子化、手続きの迅速化、非対面点呼の促進
・ロボットや新技術の導入支援、自動運転の実現に向けた取り組みの推進
・業種ごとの物流の標準化
・物流・商流データ基盤の構築と社会実装の推進
・物流DXを推進するために必要なスキルの明確化、学習機会の提供

キーワードは「DX化」です。

DXとはただデータ化する、システムを使用するだけではありません。デジタルテクノロジーを活用して、経営・ビジネスの基盤を構築しなおすことをいいます。

DX化によって業務を効率化し、労働時間そのものを縮めるよう取り組みましょう。
物流業界には、まだまだその余地が多くあります。

参考記事:今話題のテレマティクスとは?活用例やメリットなどを紹介 |お役立ち情報|パイオニア株式会社 (pioneer.jp)

「担い手にやさしい物流」に対する施策

「担い手にやさしい物流」では、生産年齢人口の減少と2024年問題を受けて労働環境の整備、共同配送、多様な人材を受け入れられる職場環境の整備を行うことが重視されています。

具体的には、次のような内容です。

・商慣習の見直しや標準的な賃金の浸透など業界のホワイト化に向けた施策
・共同輸配送、倉庫シェアリング、再配達の削減、ラストワンマイル配送の円滑化
・流通拠点の整備、自動・省人化、標準化
・貨客混載、ドローン物流
・女性や高齢者、外国人材の活躍できる職場環境の整備
・物流の現状を発信する広報活動の強化

「簡素で滑らかな物流」がDX化を推進して業務短縮を図る施策が多かったのに対し、働きやすい職場作りを目指す内容となっています。

業務効率化を突き詰めることはもちろん重要ですが、それとともにドライバーの働き方を見直し「人が集まり、継続して働きやすい業界」にしていくことが重要です。

「疲労時の運転」の危険性についてはこちらをご参照ください。

優先してとるべき対策は3点

上記のような国土交通省の提示する方向性や施策を参考として、2024年問題への対策をより具体的に考えていくと、重要なポイントは次の3点にまとめられます。

・DX化による業務効率化
・標準化による業務効率化
・労働環境の改善と情報発信


DX化による業務効率化

物流業界に身を置く人であれば、長時間労働は単に仕事が多いから発生しているわけではないことをよくご存じのはずです。

業務上発生する待ち時間はドライバーの長時間労働を助長します。

視点を変えれば、この待ち時間を短縮することで、ドライバーの労働時間が短くても利益の確保は可能と考えることもできます。積み下ろしや検品の作業効率化を図るためには、ドライバーや管理者がそれぞれの作業効率を高める以外に「DX化」がカギとなるでしょう。

物流業界の業務を円滑にするITツールには、運行管理システムをはじめとして、入出庫時の待ち時間を減らす予約システムの導入や倉庫内での無人配送車(AGV)ピッキングシステムの導入などを取り入れ、待ち時間を削減していくことが重要です。

標準化による業務効率化

業務で使用する伝票やパレットなどの資機材がバラバラの規格だと、ドライバーや管理者、チェッカーへの負担は大きくなります。それぞれの規格を統一すれば作業負担が少なくなり、業務にかける時間も削減できるでしょう。

またパレットにおいては、標準化によってトラックの積載効率・倉庫の保管効率アップにも直結するため、業務効率を改善するとともにコスト削減も図ることができます。

労働環境の改善と情報発信

物流業界の仕事は、一般的に「きつい」「大変」といったイメージを持たれやすいものです。

とくにドライバーの仕事は、長時間労働にくわえて「配送ノルマがある」「無理なスケジュールに対応しなければならない」などの場合もあり、負担が大きいのが現状となっています。

そのため、前述したDX化をはじめとして労働環境の是正が必要となります。

経営者にとっては業績アップとホワイト化を両立するのは大変ですが、労働環境を整えることで従業員に長期的に高いモチベーションで働いてもらえれば、結果的に業績の向上にもつながります。 

また、労働環境を整えるとともに、情報発信も重要です。
悪いイメージを払拭するためには、積極的に自社の取り組みや従業員の働き方を公開し、継続して情報を発信しましょう。

物流業界全体のイメージは企業イメージにもつながるため、業界に労働者にとって働きやすい企業が増えていくことで、人材が獲得しやすくなります。

こうした取り組みは、今日実施したからといって明日効果が出るものではありません。

しかし、長期的な目線で業界全体のホワイト化・イメージアップに努めることで、将来的に自社の求める人材の獲得につなげられます。

多様な人材の受け入れ体制整備

多様な人材を受け入れる体制を整備し、これまで働けなかった人材を活用することもまた、ドライバー不足の解消につながります。

たとえば

・シニア人材が活躍できるようドライバー業務を分割し、短時間の働き方ができるようにする
・日本語ネイティブでない人材にもわかりやすい日本語での研修・教育を実施する
・女性が働きやすい職場環境の整備

などの取り組みを行えば、これまで「働く意欲はあるが、個人の状況・理由によって働けなかった」人材を活用できるようになるでしょう。

これまで自社が求めてきた人材の枠組みを広げることで、新たな可能性を持つ人材を獲得できる可能性もあります。

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まとめ

今回は、物流業界の2024年問題について、課題の詳細と対策をご紹介しました。

重要なポイントは以下のとおりです。

・DX化、均一化によって業務効率を高め、業務時間が減少しても対応できるようにする
・労働環境の改善と情報発信は中長期的な目線でいえば人材獲得につながる
・多様な人材の受け入れ体制を整備することで、これまでの枠組みを広げた採用活動が可能となる

2024年問題は、もはや遠い未来の話ではありません。

今回ご紹介した課題と対策を自社に当てはめ、優先して取り組むべき課題・対策から手を付けていきましょう。期間をしっかりと設けてできることから行っていけば、2024年問題は過度に恐れる必要はありません。

まずは自社の課題としてどんな点が当てはまるかを明確にし、課題と向き合っていきましょう。

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