飲酒運転撲滅を目的として、2022年4月1日から運転前後でのアルコールチェックが必須となりました。さらに10月1日からは、チェック時のアルコール検知器の使用と確認記録の保存も義務付けられるなど、段階的に厳格化します。飲酒運転による事故などを未然に防ぎ、健全な経営を続けていくためにも正しくアルコールチェックをしなければいけません。そこで注意したいのが、検知の際の不正です。 この記事では、過去にあったアルコール検知の不正に関する具体的な事例とその対策、正しいチェックの方法、飲酒運転が発生した場合の影響について解説します。
警察庁は2023年6月8日、「白ナンバー」の車を使う事業者に対するアルコール検知器によるドライバーの飲酒検査を12月1日から義務化するとの方針を明らかにしました。それに関連し、2023年6月9日から同年7月8日までパブリックコメントを募集しています。 (この経緯について、詳しくは【2023年6月最新情報】アルコール検知器を用いた酒気帯び確認の義務化は2023年12月か。パブリックコメントの募集が開始されるもご参照ください) |
1-1.身代わり
1-2.ストローへの細工
1-3.息を吐ききって検知器を使う
2-1-1.食べものや飲みもの関連
2-1-2.タバコ、口臭ケア用品、除菌グッズなど
2-1-3.体質や前日のアルコール
2-1-4.検知場所
3-1.使用するアルコール検知器
3-2.アルコールチェックの記録方法
3-3.アルコール検知器の保守点検
3-4.感染対策も忘れずに
4-1.飲酒運転の2つの種類とその違い
4-2.ごまかしによる飲酒運転をどう未然に防止するか
ドライバーの安全運転に関して、経営者や管理者が徹底した管理体制を敷いておく必要があることはいうまでもありません。しかし、どれだけ仕組みや体制を整えたとしても、すべての不正を見抜くのは困難です。また、仮にドライバー側の不正だったとしても、そのドライバーを雇用している企業や経営者側の責任が問われてしまいます。いずれにせよ、ドライバーの不正のあるなしにかかわらず、飲酒運転が発覚したとなれば、事業停止処分となり、経営にも影響が出ます。今後の企業イメージにも大きな打撃となるでしょう。
そういった事態にならないよう、まずは実際にあった不正について紹介しますので、事前に対策をしておきましょう。
まずは、身代わりによる不正があげられます。たとえば、1回目のチェックでアルコールが検出されたため、2回目以降のチェックの際、他の運転手に検知器を提出させるパターン。あるいは、管理者が目を離している間に他の運転手が身代わりに測定を行うパターンも考えられます。とくに遠隔での調査の場合や、同時にチェックする対象者が複数人いる時などは注意しなければいけません。アルコールチェック時には管理がしっかり行われていないと、チェック対象者が別の誰かに息を吹き込ませるといった、身代わりによる不正が起こりえます。
対処法としては、直接目の届くところでチェックすることがまずあげられます。目を離すことなくチェックできるのであれば身代わりすることは難しいはずです。
一方、直接の確認が難しい場合は、カメラ付きのチェッカーを用いて検知しているところを撮影し身代わりを防止する、あるいは遠隔でチェックする際も2箇所にカメラを設置するなどの工夫を行い、チェック体制を徹底することが大切といえます。
続いて気をつけるべきは、ストローへの細工です。チェックに使う機材に細工を加えて、不正を図るもので、これも非常に悪質な手口といえます。具体的には、アルコール検知器に使用するストロー部分に穴をあけてチューブを差し込み、小型ポンプから空気を吹き込んだ事例や、同じように穴を空けて差し込んだチューブから別のドライバーが横から息を吹き込んだという事例も報告されています。
対処法としては、チェックする前に検知器に不審な点がないか、細工されたあとがないかをしっかり確認するなどの対応をとることが必要です。
最後は、息を吐ききるつもりで吐き、残った息を検知器に吹きかけるという不正の方法です。ちゃんと検知器に息を吹きかけているようで、実はチェックに引っかからない程度の息しか吹きかけておらず、検知を免れるという悪質なものです。一見すると、真面目にチェックに対応しているように見えますので、注意しなければいけません。
対処法としては、安全運転管理者が直接アルコールチェックを行い、対象者に不審な動きがないかも含めチェックすることです。こればかりは目視で確認するほかありません。
いずれの方法も手口は巧妙かもしれませんが、事前に不正の可能性を把握しておけば、それに見合った対策が打てるはずですので管理体制の参考にしておきましょう。
白ナンバー事業者のアルコールチェック義務化について一からご理解されたい方は、『アルコールチェックの義務化にむけて準備しておくポイント』をご参照ください。
実は、アルコール以外でも検知器が反応することがあります。普段の生活の中でも馴染みのある食材や、習慣が影響することもありますので、検知器が反応する可能性のあるものを解説します。「お酒を飲んでないのにアルコールチェッカーに反応したことがある」という方もいらっしゃるかもしれませんが、その原因も併せて紹介します。
具体的にアルコール検知器に反応する可能性のあるものを見ていきましょう。
身近な食べものが原因で検知器が反応することがあるので注意が必要です。具体的には、キムチや味噌汁、あんパンなどです。これらに共通するのは「発酵」食品であることで、キムチや味噌はいうまでもありませんが、パン類も製造過程で発酵させます。あるいは、製造過程で微量のアルコールを使っている食品の場合、それが残存していることも考えられます。
飲みもので見ると、栄養ドリンク、ノンアルコールビール、エナジードリンクなどで、ノンアルコールビールにも微量ながらもアルコールが入っています。そのため、チェックで引っかかる可能性があるのです。
タバコを吸った後、口の中には一酸化炭素が残るのですが、その影響でアルコール検知器に反応が出ることもあります。また、タバコを吸っている人の中には、マウスウォッシュなどのケアアイテムを使用している人もいるでしょう。そういった口腔ケアアイテムも反応が出ることがあります。
しかし、ケアアイテムを使用してから20〜30分ほど時間を空けて、さらにうがいをしてからチェックすれば正しい結果が出ることがほとんどですので安心してください。
体質や前日のアルコールの摂取にも注意しましょう。体調や持病によって腸からガスが出やすい、あるいは体内から発生するガスから反応するケースもあります。前日のアルコール摂取についても、アルコールを分解するのには一定の時間が必要となりますので、自分は大丈夫と思っていても残っている場合があるので注意しましょう。
最後は、意外な点かもしれませんが、検知する場所です。たとえば、消臭剤や芳香剤、掃除用クリーナーなど、アルコール成分を含む製品を使用した商品がある場所などは、それらが影響して反応してしまうことがあるのです。
それでは、アルコールチェックの正しい方法について見ていきましょう。
まず、検知機器についてですが、実はアルコールチェックにおいて指定された機器はありません。呼気中のアルコールの有無や濃度を音や光、数値などで正しく示すことができる機器であればいいのです。多くのメーカーがアルコール検知器を販売していますので、検査結果を自動で記録するものやシステムと連携できるものなどを選んでおくと、管理も楽ではないでしょうか。
また、記録方法に関しても指定はありません。主には、「検査日時」「検査対象者の氏名」「検査を確認した者の氏名」「検査結果」をチェック項目として作成すればいいでしょう。記録を確認することなどを考えると、手書きベースのアナログ形式よりもデータ形式の方が確認しやすいでしょう。そのため、上記であげたように検知器と連動できるシステムを使用して管理しておけば、よりスムーズといえます。
そして、測定前には機器に電源が入るか、損傷がないか、正常呼気で異常な反応が出ないか(複数回繰り返しても同じ反応かチェック)などを確認しましょう。チェック対象者には前述したような検知器に反応してしまうような飲食物などについてあらかじめ伝えておくこと、飲酒以外での反応があった場合の対処法をしっかり伝えておくことも大切です。機器自体も、使用頻度によって劣化していくため、定期メンテナンスなどを怠らないようにすることも忘れないようにしましょう。
その他、必ず注意しなければならないのが新型コロナウイルスなどの感染対策です。チェックには「呼気」を吹きかけなければいけないため、検知器の消毒や人数分のストローなどを用意するなど対策を講じておきましょう。
同様に、感染対策として手指にアルコール消毒をする機会も多くなるでしょう。ただし、そのせいで検知器が正しく反応しないことも考えられるため、直前には消毒しないようにするなども必要です。感染予防を万全にしつつも正しい数値が検出できるよう工夫するようにしましょう。
万が一、不正やごまかしによって飲酒運転が発生してしまったらどうすればいいのでしょうか。その対応方法を検討する前に、まず飲酒運転には2つの種類があり、それぞれ罰則などが異なることを理解しておく必要があります。ドライバーは当然ですが、雇用する経営者、管理者側もそれぞれの違いについて理解しておきましょう。
飲酒運転は、「酒気帯び運転」と「酒酔い運転」に分けられます。
呼気中のアルコール濃度が1リットルあたり0.15mg以上含まれる状態で運転していることを「酒気帯び運転」といい、0.25mg以上含まれていた場合はより処分が重くなります。検閲などで上記の条件に引っかかった場合、0.15mg以上0.25mg未満で違反点数が13点となり、最低でも90日間の免許停止処分となります。0.25mg以上の場合は違反点数が25点となり、免許取り消し処分かつ最低2年の欠格期間という処分です。仮に死傷事故など起こしてしまった場合の罰則としては、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられます。
一方、検出されるアルコール濃度の数値に関係なく、酒に酔った状態で運転が困難だと思われるにもかかわらず運転していることを「酒酔い運転」といいます。運動機能や平衡感覚が正常かどうか、あるいは言動などから判断されるため、仮にアルコール濃度が0.15mg未満だったとしても体質によっては酒酔い運転に該当することもある、ということです。酒酔い運転の場合は、違反点数が35点で、免許取り消し処分かつ最低3年の欠格期間という処分となります。死傷事故を起こしたとすると、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられ、もし同乗者が酒酔い運転を把握していた場合、同乗者にも3年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられます。
また、酒気帯び運転・酒酔い運転において共通ですが、同乗者には2年以下の懲役又は30万円以下の罰金となります。飲酒運転は、同乗者にも厳しい処罰が科せられるため、注意しましょう。飲酒運転は本人だけでなく、同乗者など周囲にも影響を及ぼします。その影響は、当然ながら所属する会社にも及びます。冒頭でもお伝えしたような業務停止処分だけでなく、企業のイメージ低下による売上減少の可能性も考えられるでしょう。そのような最悪の事態を避けるためにも日頃からの対策が大切です。
飲酒運転の危険性と、飲酒運転が及ぼす本人だけでなく周囲への影響について啓蒙することはもちろん、アルコールチェックを正しく実施・管理することが、飲酒運転を防ぐための抑止力にもなるでしょう。不正が起こらないよう、正しくアルコールチェックが実施できるよう仕組みづくり、体制を整えるようにしておくことが重要なのです。
2022年より必須となったアルコールチェックは、危険な飲酒運転を撲滅するためには必要なものといえます。飲酒運転を減らすことは、死傷事故を減らすことはもちろん、運転手の命や人生を守ることにもなり、そして雇用する側の企業のイメージや売上も守ります。そのため、正しくアルコールチェックすることが求められます。それでも不正が発生する可能性はゼロではないため、日頃からのチェック体制や仕組みをしっかり整えておきましょう。
今回の記事では過去にあった不正の事例も紹介しました。過去に起きたことは再度起こる可能性もありますが、対策を事前に打つことも可能です。紹介した対策に加え、正しい方法でアルコールチェックを行い、健全な経営に繋げていきましょう。