• アルコールチェック義務化

アルコールチェックは就業規則に盛り込むべき?

道路交通法の改正によって、規定の台数以上白ナンバーを所有する事業所では、2022年4月より、アルコールチェックを実施する必要があります。 また、同年10月からアルコール検知器を使ったチェックも義務付けられます。しかしながら、どのようにチェック体制を築けばいいのか、従業員への周知はどうすべきか、頭を悩ませる人は多いでしょう。 また、就業規則に盛り込むべきか、そこまでしなくてもいいのか、というラインも判断が付きにくい部分です。 そこで今回は、アルコールチェック義務化を機に企業が取り組みたいこと、就業規則に盛り込むべきか、そうでないのかなどを解説します。

目次

2022年10月1日から予定されていた白ナンバー事業者における車両利用前後のアルコール検知器の使用義務について、2022年9月9日に警察庁のWebサイト上で以下の結果が公示され、アルコール検知器を用いた酒気帯び確認の義務化は無期延期されることになりました。安全運転管理者は、当面の間はこれまで通り、運転前後の目視等による酒気帯び確認・記録を継続することになります。

(この経緯について、詳しくはこちらの記事もご参照ください)


1.従業員が業務中に飲酒運転をした場合のリスク

1-1.飲酒運転者には懲役や失業の影響を及ぼす

2.アルコールチェックの義務化を機に企業が取り組みたいこと

2-1.アルコールチェックの記録と1年間の保管

3.アルコールチェックは就業規則に盛り込むべきか

3-1.就業規則の役割
3-2.就業規則はどんな時に変更する?
3-3.アルコールチェックを就業規則に盛り込むと得られるメリット
3-4.アルコールチェックの確実な実施をうながせる
3-5.違反者に対して就業規則に基づいた適切な処置が可能

4.就業規則はどのように作成する?

4-1.自社で作成する場合
4-2.社労士・弁護士に依頼する場合

5.就業規則への記載例

5-1.労使の合意がないと変更ができない
5-2.変更の手続きは事業所ごとに

6.就業規則を変更したら

7.まとめ

従業員が業務中に飲酒運転をした場合のリスク

飲酒運転は、事業の停止や会社の信用の失墜、経営破綻を呼ぶ恐ろしいリスクがあります。

実際に行政の処分は厳しく設定されており、運転者が飲酒運転を起こした場合、初違反で100日車、再違反で200日車の車両停止処分があります。

加えて、事業者が飲酒運転を容認した場合は、違反事業所に対して14日間の事業停止。飲酒運転を伴う重大事故を起こし、事業者が飲酒運転に係る指導監督義務違反の場合は、違反事業者に対して7日間の事業停止。事業者が飲酒運転に係る指導監督義務違反の場合は、違反事業者に対して3日間の事業停止のとなります。

法的な処罰以外にも、飲酒運転を許容してしまったという事実から、会社の信用に悪い影響を与える可能性もあります。

飲酒運転者には懲役や失業の影響を及ぼす

ダメージを負うのは会社だけではありません。

飲酒運転をした人には懲役や失業のリスクがあります。前提として、飲酒運転をするだけでも、酒酔い運転の場合5年以下の懲役または100万円以下の罰金、違反点数の35点となり3年間免許が取得できなくなることを理解しておきましょう。

また、酒気帯び運転の場合は3年以下の懲役または50万円以下の罰金が課せられます。呼気1リットルにつき0.25mg以上で25点の減点で免許取り消し、呼気1リットルにつき0.15mg以上0.25mg未満の場合は13点の減点で免許停止です。

そして、アルコールの影響により正常な判断ができない状態で負傷事故を起こすと15年以下の懲役、死亡事故を起こすと1年以上20年以下の懲役です。

アルコールの影響により正常な運転ができないおそれのある状態で負傷事故を起こすと、12年以下の懲役、死亡事故の場合は15年以下の懲役となります。

こうしたことから、飲酒運転は会社に迷惑をかけるだけではなく、運転者の将来にも傷をつける行為だとわかります。

 

アルコールチェック義務化について一から理解されたい方は、『アルコールチェックの義務化にむけて準備しておくポイント』をご参照ください。

アルコールチェックの義務化を機に企業が取り組みたいこと

アルコールチェックの義務化の対象になる企業は、下記いずれかに該当する企業です。

・定員11人以上の自動車を1台以上使用している事業所
・自動車を5台以上使用している事業所

※50ccを超える自動二輪車は1台を0.5台で計算

以上の条件を満たす企業は、必ず取り組まなければならない業務があります。

アルコールチェックの記録と1年間の保管

アルコールチェックは日々記録するだけでなく、1年間保管しておく必要があります。

また、適切にアルコールチェックを継続していけるよう、模表やスケジュールの策定などが必要です。企業によっては、直行直帰の従業員に対してモニターや携帯電話を使ったアルコールチェックを行う必要もあり、機材を揃えなくてはなりません。

また、10月に向けた、アルコール検知器の導入も行う必要があります。

アルコールチェックは就業規則に盛り込むべきか

アルコールチェックは就業規則に盛り込むべきです。
というよりも、盛り込まなければなりません。

運送業や旅客輸送業ではすでにアルコールチェックは義務化されており、就業規定にも飲酒運転やアルコールチェックについて明確に記載している企業も多く存在します。

しかしながら、運送業や旅客輸送業以外の会社ではアルコールチェックに関する規定を明記していない企業もまだまだあります。

アルコールチェックを適切かつ確実に実施し、継続していくために就業規則でも定めて、従業員一同アルコールチェックに関して意識を高めていくことが重要です。

就業規則の役割

そもそも就業規則は、会社のルールを明確にする役割を持っています。
賃金の決定から異動、解雇に関してなど、会社に所属するうえで守らなければならないルールを記載しています。

守秘義務の漏洩など、会社にとって不利益になりうる事案から会社を守るのも就業規則です。

就業規則はどんな時に変更する?

就業規則を変更するタイミングには、次のようなものがあります。

・創業以来、就業規則を一度も変更していないとき
・労働時間や休日、給与形態を変更するとき
・手当や制度を新設したり廃止したりするとき
・就業規則が会社の実態に合っていないとき
・フレックス制や在宅勤務などの変形労働時間を導入するとき

このように、就業規則を変更しなければならないシーンはたくさんあります。
もちろん、労働に関する法令の改正や最低賃金の改正があったときにも変更が必要となります。

今回のテーマである、アルコールチェックも法令の改正に該当するため、上述した通り、就業規則にアルコールチェックに関する事項を盛り込まなければならないのです。

たとえば、最低賃金スレスレの給与形態に変更する会社からの不利益変更は、労働基準法に違反するため、従業員からの反対意見があれば変更を取り消すことができます。

ところが、今回のケースであるアルコールチェックは、結果的に従業員の仕事が増えてしまいますが、労働基準法にも違反しませんし、不利益変更が関係ないため、従業員による反対意見でも就業規則の変更の取り消しができません。

アルコールチェックを就業規則に盛り込むと得られるメリット

アルコールチェックに関する事項を就業規則に盛り込むとさまざまなメリットがあります。

アルコールチェックの確実な実施をうながせる

就業規則に記載することで「アルコールチェックは確実に行わなければならない」と、従業員の意識を高めることができます。

就業規則は会社で勤務する上でのルールそのものであるため、従業員はルールに従って日々職務を全うしなければなりません。

また、社外に対してすべての従業員がアルコールチェックを行っているという事実をわかりやすく伝える助けにもなります。

違反者に対して就業規則に基づいた適切な処置が可能

アルコールチェックは従業員からすると、仕事が一つ増えるのと同義であるため、面倒だと感じる人もいるかもしれません。

しかし、意図的にアルコールチェックを行わない従業員は、就業規則を守っていない従業員として、就業規則に基づいた適切な処置が可能です。

例外として、従業員の権利を過度に制限するものである場合は無効になりますが、アルコールチェックは従業員の権利を制限するものではないため、よほどのことでない限り無効にはならないでしょう。

就業規則はどのように作成する?

就業規則は変更するシーンが多く存在するものの、頻繁に変更するものではありません。

自社で就業規則を作成する場合と、社労士や弁護士に依頼して作成する2つのパターンが存在するので、就業規則を作成する流れをチェックしてみましょう。

自社で作成する場合

自社で就業規則を作成する場合はまず、変更箇所を決めて新しい条文を考えなくてはなりません。つまり、就業規則の「どこ」を変更するかです。

変更箇所が決まったら、変更案を取りまとめていきます。パートやアルバイトの雇用をしている企業であれば、雇用形態に応じて適用の有無を決定しなければなりません。

最後に各種労働法規していないかを確認したら、社内で承認を受けます。そして、労働基準監督署に提出するため、就業規則変更届を作成します。変更点が分かるように新旧対照表を作っておくのがおすすめです。

フォーマットの指定はないものの、労働省のサイトに就業規則変更届の様式がありますので、利用してみてください。最後に、就業届の変更に添付する意見書を作成しなければなりません。

労働者の過半数を代表する人の意見書であり、不利益変更を行う場合は説明しておかなければなりません。ちなみに代表者は挙手や投票で選出されなければならないので、勝手に決めないようにしてください。

従業員の意見を聞いて内容に書面し、日付と署名捺印を入れたら完了です。ちなみに、必要なコストとしては、就業規則の作成に関わる人件費が発生する点を覚えておきましょう。

労働基準監督署に提出したり、社内へ周知したりすることに関する詳細は後述します。

社労士・弁護士に依頼する場合

自社で就業規則を作らない場合、社労士や弁護士に依頼して作成しなければなりません。特に社労士に依頼して作成するケースが多く、実際に社労士に依頼した過去を持つ人もいるでしょう。

社労士は就業規則作成が業務の一環であるため、就業規則の作成からチェックまで安心して任せられます。

費用の相場としては、数万円から50万円とムラがあり、25万円から30万円が妥当です。しかしながら、就業規則を新しく作るのか、変更なのかによっても費用が異なります。

次に、法律の専門家である弁護士に依頼して就業規則を作成するパターンです。弁護士は訴訟になった時に強い力を振るってくれますが、力を入れている分野が異なります。したがって、弁護士に依頼する際は就業規則に力を入れている弁護士に依頼しましょう。

なかでも弁護士は企業法務に関わる企業側の弁護士と、労働者側で弁護をする弁護士と分けられるため、就業規則の作成には前者が向いています。しかしながら、就業規則の作成費用は社労士よりも少し割高に設定されています。

就業規則への記載例

東京労働局や厚生労働省には就業規則の記載例が掲載されています。作成例に載っている規定例や解説を参考にしながら、事業の実態に基づいた就業規則を作成して届出をしましょう。

しかし、就業規則にはいくつかの注意点があるので、作成前に確認しておきましょう。

労使の合意がないと変更ができない

労働契約法畳、就業規則の内容は会社で一方的に変更が原則不可能です。

つまり、労使の合意がないまま就業規則を変更するのは違反になってしまいます。さらに、従業員の合意が、会社側で強制した合意であれば無効となります。

変更の手続きは事業所ごとに

就業規則を変更する際は、事業所ごとに変更手続きをしなくてはなりません。

東京に本社を起き、東京以外の場所で支店を出している場合は、本社でも支店でも変更手続きが必要です。とはいえ、本社と就業規則の変更内容が同じであれば一括で提出ができます。

就業規則を変更したら

上述の意見書を作成した後にやるべきことを紹介します。

まずは変更届、意見書、新しい就業規則の用意ができたら、労働基準監督署に提出します。各2部ずつ用意して、一つは受領印を押してもらって、もう一つは控えとして扱うのがおすすめです。

形式に沿ったものであれば受理されますが、変更内容が労働基準法に違反している場合は受理されないケースがあります。作成が完了したら見直しをして十分にチェックしてください。

そして、最後に従業員へ就業規則が変更されたこと周知しなければなりません。

周知は好きなタイミングで行って良いので、届出前に周知しても問題ありません。同様に「どこ」を変更したのかがひと目で分かるように、新旧対照表を作って周知をしましょう。

そして、新しい就業規則は社内の共有ファイルなどの、全ての従業員がいつでも確認できる場所に保管しておいてください。そして、就業規則の保存場所も共有すれば、完了です。

まとめ

アルコールチェックは国が決定した新しい義務化であるため、就業規則に新しく追加しなければなりません。

顧客に対して安心できるサービスを提供するだけではなく、従業員一同でアルコールチェックを実施して仕事に対する意識を高めるために必要なので、必ず就業規則にアルコールチェックに関する事項を盛り込みましょう。

就業規則の作成は作業の工程が多く、毎日行う業務とは全くの別物であるため、確認をしながら作業を行っていってください。