もし、従業員が社用車で事故を起こしてしまったら?会社側が負うべき責任はどのようなものがあり、どこまでが会社側の責任となるのでしょうか。自動車を事業で扱う会社は、事故が起きてしまった時の責任について理解しておくことはもちろん、事故を起こさないための予防方法や、取り組みについて考える必要があります。 今回は、社用車で事故が発生した際の責任について、そして事故防止のための具体的な取り組みについて取り上げます。万が一の事故を未然に防ぐために、参考にしてください。
2-1.業務中に事故が起こった場合
2-2.業務外で事故が起こった場合
3-1.社内で交通安全研修を定期的に開催する
3-2.企業向け交通安全運転講習を受講させる
3-3.社用車の利用を許可制にする
3-4.管理システムを導入する
3-5.表彰制度を導入する
3-6.AI搭載型ドライブレコーダーを導入する
4-1.東京都大田区|走行中の営業車が3人をはねた事故
4-2.兵庫県尼崎市|運転中のトラックが4台に絡む玉突き事故
4-3.滋賀県竜王町|大型トラックによるワゴン車追突事故
もし社用車を利用した社員が事故を起こした場合、会社側はどのような責任を追う必要があるのでしょうか。大きくは2つあり、「使用者責任」もしくは「運転供用者責任」です。
使用者(会社)が雇っている被用者(従業員)が、仮に事故といった不法な行為を起こして相手に損害を与えてしまった場合、使用者は被用者と連帯責任を追わなければいけません。これを「使用者責任」といいます。
そのため、社用車を利用した従業員が業務中に交通事故を起こし、何かしらの損害を与えた場合も使用者である会社側も一緒に責任を負うこととなります。事故を起こした張本人が従業員であり、会社側に非がなかったとしても、会社側は責任を果たす必要がある、ということです。
「運転供用者責任」とは、自動車を活用することで利益を上げている会社は、その自動車が起こした交通事故について責任を負わなければならないというものです。車を使った仕事を従業員へ課している場合、車を活用することで会社側は利益をあげていることになります。そのため、会社側に運転供用者責任が発生します。
ちなみに、運行供用者責任の対象となる人としては、車の所有者が典型ですが、所有者以外の場合でも成立することがあります。
続いては、社用車で事故が起こった場合の責任に関してです。事故が起こったのが、業務中であるか否かがポイントとなります。
業務中の事故の場合は、会社側にも使用者責任と運転供用者責任が発生します。理由は会社側にも連帯責任が発生することと、会社名義の車を業務中に運転していたため、利益を上げるための行動だったと判断されるからです。
一方で、当然ながら事故を起こした従業員も被害者に対して損害賠償責任が発生します。一般的に被害者への賠償は、会社の保険を使用しますが、万が一会社側での補償では足りない場合、従業員側で一部負担をしなければならないことも珍しくありません。
また、会社の保険で被害者への補償が足りたとしても、事故を起こした従業員は責任に応じた額の支払いを会社側から「求償」として求められることもあります。誰がどこまで責任を負うのかについては、求償の有無や運転中の状況、事故原因、被害状況など、事情によって異なります。
いずれにしても、重大な過失がないのであれば、その分負担は軽く済むことが多いでしょう。そのため、事故状況をしっかりと説明できるように、事故を起こした本人は記録を残しておくことが大切であり、万が一に備えて事前に求償の有無など、ルールも確認しておくといいでしょう。
業務外の事故の場合、原則的には従業員が損害賠償責任を負うことになります。ただし、車が会社名義である以上は業務中の事故同様、会社に運行供用者責任が発生する可能性は高いです。そうなると、被害者への賠償は、会社と従業員本人が連携責任を負うかたちで進めることになります。
仮に従業員が社用車を無断で、かつ私的に利用していた際に事故を起こしたらどうなるのでしょうか。この場合、会社側には運行供用者責任が発生しない可能性も出てきます。なぜなら、私的利用のため、従業員の運転が事業と関係なく、会社側に利益をもたらすものではないからです。労働基準法の定めによると、従業員への損害賠償請求や費用負担を禁止していません。つまり、従業員が損害賠償額や修理費用を全額負担しなければならないケースもあり得ます。故意もしくは重大な過失により発生した事故で、会社側へ重大な損害を与えた場合はなおさら、従業員の全額負担となる可能性は高くなります。
参考:安全運転義務違反に該当するケース!事故時の点数と罰則金について |お役立ち情報|パイオニア株式会社 (pioneer.jp)
事故を防止するためには、日頃からの取り組みや意識が大切です。具体的には「社内での交通安全研修」「社外の講習会への参加」「利用の許可制」「管理システムの導入」「表彰制度の導入」「AI搭載型ドライブレコーダーの導入」などが挙げられます。
もちろんこれらを導入すれば、事故がゼロになる、ということではありませんが、導入することで、確実に従業員に安全運転を意識させるきっかけづくりとなります。
参考:安全運転研修の効果が見えない・・・指導の効果を高めるための鉄則とは |お役立ち情報|クラウド型車両・運行管理サービス ビークルアシスト|パイオニア株式会社 (pioneer.jp)
内容としては、従業員に道路交通法に規定されている内容や、標識がそれぞれどのような意味をもつのかなど、復習するというものです。自動車免許を取得する際には、座学で上記内容について学ぶ機会がありますが、多くの人が免許取得後に勉強する時間を設けていないでしょう。また、運転への慣れからくる油断を無くすためにも、改めて復習の機会を設けることは有益といえます。
定期的に交通安全に関する研修を開催することで、安全運転に対して意識づけでき、日々の運転業務に対して緊張感を持つことにも繋がるでしょう。
もしも社内で講習や企画を組むのが難しい、あるいは講師役を勤められる人材がいないのであれば、ドライビングスクールで提供されている企業向けの交通安全運転講習を受講させるのもおすすめです。スクールによっては、会社側のニーズに応じたカリキュラムを組んでくれるところもあり、自社の状況にあった内容の講座にすることも可能です。また、自動車運転を教えるプロから講習を受けられるため、内容的にも満足できるでしょう。
こういった機会も、先に紹介した社内での講習と同様に、定期的に受講させることで日々の安全運転に対する意識づけとなります。
社用車を利用する理由を明記してもらうようにすれば、私的利用するケースを減らすことも可能となるはずです。許可制にすることで無駄な利用を無くすことに繋がり、ひいては事故のリスクも軽減できるでしょう。
もちろん利用を制限させることが目的ではなく、あくまで安全運転を推奨するための措置であることを忘れないようにしておくことが大切です。事業をまわし、利益を追求しながらも、安全に社用車を運転させることが許可制の目的です。
車両管理システムを導入すれば、会社が所有するすべての車両情報を一元管理できるようになります。管理できる情報としては、車両の保守点検から整備についてはもちろんのこと、車両の使用状況や、利用するドライバーの労務管理まで幅広くデータ化できます。あらゆるデータを数値として可視化できるため、無理な運転を未然に防ぐことができ、疲れなどが原因による居眠り運転の防止にも繋げられるはずです。
また、システムを導入することで業務効率を改善できるというメリットも生まれるため、管理システムを導入していない場合は一度検討してみることをおすすめします。
年に1回、あるいは四半期ごとなど、節目に従業員向けの安全運転に関する表彰をしてみるのも、従業員の安全運転への意識づけによいです。日頃から安全運転すること自体は当たり前ですが、仕事に追われてしまい、無理な運転をしてしまうこともあるかもしれません。そういった行動を抑制させるためにも、表彰制度が役に立ちます。
業務をこなすため、無理に運転することよりも、安全運転を継続することの方がインセンティブが大きいということを表彰制度で意識づけさせましょう。表彰制度があることで働く従業員の新たなモチベーションになるというメリットも生まれます。
最後は、AI搭載型のドライブレコーダーを導入することです。AIがリアルタイムで映像を解析し、もしもドライバーに異変や危険があると判断した場合、ドライバーに警告してくれます。警告の種類には、モニターに通知文が表示される、あるいは音声ガイダンスが入るなどがあり、とくに居眠り運転防止には、音声でのアナウンスは効果的でしょう。
具体的には、走行中にドライバーのまぶたの動きを解析し、目をつぶっている状態が一定時間以上続いたら警告が入り、事故が起こる前に休息をとるよう促してくれます。つい無理してしまいがちな人も多いかもしれませんが、客観的なデータからの提案のため、従いやすいはずです。
併せて、居眠り防止に関する警告が入った場合には、一定時間の休息を挟むことを奨励するといった会社側でのルール作りも必要となってくることはいうまでもありません。
参考:法人向け通信型ドライブレコーダーを導入するメリットとは |お役立ち情報|パイオニア株式会社 (pioneer.jp)
実際に発生した居眠り運転による事故の実例について紹介します。いずれも痛ましい事故で、絶対に繰り返してはいけません。また、先にあげたような対策によって防げた事故もあるはずです。過去に発生した事故を他人事と思うのではなく、2度と繰り返してはならないと、教訓とするためにも忘れてはならない実例です。
某飲料のメーカー女性社員が、社用車での営業中に居眠り運転をして、中央分離帯に突っ込み、植え込みにいた作業員2人と、交通整理をしていた警備員1人の合計3人をはねた事故です。この事故により、70代の作業員が全身を強く打ち、病院へ搬送されるも死亡。また、70代の警備員が意識不明の重体、60代の作業員も足を骨折するなどの重傷を負いました。
車を運転していた女性社員は、自動車運転過失致傷の疑いで現行犯逮捕され、被害者の死亡が確認されたあとは、容疑を同致死傷に切り替えられました。事故当時の新聞には、女性社員が勤務する飲料メーカーの社名が公表されており、企業イメージの大幅な低下があったことが想像されます。
休憩を惜しんだことで発生した悲劇です。配送業者に勤務する40代の男性が大型トラックを運転中に居眠りをし、乗用車など4台が絡む玉突き事故を起こしました。事故により、男子大学生1人が死亡、男女5人に重軽傷を負わせ、うち1人は介護が必要になるほどの重い障害を残しました。
男性が勤務する配送業者では、高速代を運転手に負担させていたのですが、事故を起こした男性は家計のためにも高速代を浮かしたいと、一般道を中心に走行。勤務開始から18時間が経過し、750キロ以上走り続けていたにもかかわらず、会社に嘘の報告をしてまで休憩を取っていませんでした。眠気と疲れを自覚していた従業員は、目先の賃金のために休憩を惜しみ、結果として若い命と未来を奪ってしまいました。
少しくらい大丈夫、という油断が自分だけでなく、多くの人の未来を奪う可能性があることを改めて自覚する必要がある事例です。
この事故では、追突されたワゴン車に乗っていた3人が亡くなりました。現場には追突した大型トラックと思われるブレーキ痕が数十メートルにわたり残っており、警察は運転していた男性が衝突直前に、前方の乗用車に気づき、急ブレーキを踏んだが間に合わなかったとしています。事故当時、高速道路の補修による渋滞が起きており、追突されたワゴン車は前方の車両に激突して大破するなど、事故の衝撃を物語っています。
このケースも居眠り運転が原因で発生しており、20代の若い命が奪われてしまうという悲惨な事故でした。
参考:2024年問題とは?物流業界に生じる問題や課題、対策まで解説 |お役立ち情報|パイオニア株式会社 (pioneer.jp)
従業員が居眠り事故を起こしてしまった場合、会社側は直接的に非がなくとも、使用者責任で賠償責任を果たす必要があります。実例で取り上げたような悲惨な事故をなくすため、車を運転する従業員を守るためにも、会社として安全運転に対する取り組みや予防策を疎かにするべきではありません。万が一、従業員が事故を起こしてしまったら、事故に巻き込まれた方々の未来を奪うことや会社のイメージ低下になるなど、取り返しがつかない状況となります。そうならないように、今回取り上げたような具体的な方法で未然に防ぐための取り組みを始めましょう。