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緑ナンバー事業者に学ぶアルコールチェックの運用 - カンダコーポレーション株式会社

2022年4月より道路交通法の改正に伴い、一定台数以上の白ナンバーの自動車を保有する企業での、アルコールチェックが義務化されます。 安全運転管理者による確認(2022年4月以降)やアルコール検知器を用いての酒気帯びチェック(2022年10月以降)が必須となるにあたり、運用方法を模索されている白ナンバー車保有企業も多いことでしょう。そこで既に2011年よりアルコールチェックが義務化されている緑ナンバー車保有企業のアルコールチェック運用のノウハウを紹介します。 今回は全国配送ネットワークを持つ企業『カンダコーポレーション』のトランスネット営業部 営業一課所長 武井敦さんと同部署 営業二課所長 横山憲行さんにお話をうかがいました。

目次

1.全国規模の運送事業を行う企業のアルコールチェック体制は?

2.アルコールチェックを行う側の、人員の確保について

3.点呼で確認している内容は酒気帯びの有無だけではない

4.安全運転への意識は、採用時の手厚い研修から育まれている

5.アルコールチェックの運用初期に想定されるトラブルとは?

 

全国規模の運送事業を行う企業のアルコールチェック体制は?

――カンダコーポレーションは、運送事業に関してだけでも色々な業務内容があると思うのですが、本日お話をうかがうトランスネット営業部の営業一課、二課のお仕事内容はどのようなものなのでしょうか。

カンダコーポレーション株式会社武井さん

「営業一課は主に出版物を扱っています。いわゆる本・雑誌・書籍を、取次という本の卸会社さんから受け取って、本屋さんなどの小売店に運ぶ仕事です。私どもの営業所にある大型のトラックで取次から出版物を受け取って、そのあと小型の2トン車3トン車で小売店に運ぶという流れです」(武井さん)

カンダコーポレーション株式会社横山さん

「営業二課は企業がリースして使っているパソコンを全国から回収する業務を行なっています。協力会社さんの、ワゴン車などの小さい車で運送する業務です。ですから、実は営業二課では車を持っていません」(横山さん)

――今回はアルコールチェックの体制について知りたいのですが、それぞれの部署ではどのようにアルコールチェックを行っているのでしょうか。

「先ほども触れたように、営業二課では車を持っていません。車は協力会社さんの車庫から出発しますので、協力会社でアルコールチェックや車両の点検をしていただいています。我々としては、飲酒運転撲滅のための点呼やアルコールチェックを確実にやっていただくような契約を交わしています。この岩槻物流の事業所でアルコールチェックをしているのは、営業一課の方ですね」(横山さん)

カンダコーポレーション株式会社横山さんと武井さん

「カンダコーポレーションの岩槻物流には大型車だけでなく、トレーラーや中型、小型車、社用バスなど、さまざまな車を運転するドライバーがいますが、ドライバー職の人間は、全員アルコールチェックを行なっています。

アルコール検知器

2022年4月から白ナンバーのアルコールチェックが義務化されたわけですが、私どもは以前から、緑ナンバーだけではなく白ナンバーのドライバーもアルコールチェックしているわけです」(武井さん)

――この事業所でアルコールチェックが必要な車は1日何台ぐらい稼働しているのでしょう。

「20台くらいですね。ですから日に20人のドライバーのアルコールチェックを行なっています」(武井さん)

 

アルコールチェックを行う側の、人員の確保について

――目視やアルコール検知器による測定を行ったり、記録を取ったりする管理担当者は何人ぐらいいるのでしょうか。管理担当者は、白ナンバー車保有の企業では安全運転管理者ですが、緑ナンバー保有企業ですと、運行管理者ということになりますね。

「私たちの会社ですと、アルコールチェックは運行管理者が行います。この岩槻物流の事業所では、5人が運行管理者の資格を持っています。ドライバーは交代しますが、会社としては24時間営業の体制ですので、対面点呼をする運行管理者が1人、2人では足りないのです。私や横山も運行管理者です」(武井さん)

運行管理者任命証

「社員の異動などもありますので、どの事業所でもチェックが行えるよう、若いうちに資格を取ることが奨励されています」(横山さん)

――白ナンバー保有企業で義務付けられている安全運転管理者の任命条件は、年齢が20歳以上、実務経験が2年以上で違反行為がないこと、といった条件があります。一方、緑ナンバー車保有企業でアルコールチェックを担当する運行管理者は国家資格が必要です。国家資格取得は、どのような条件があるのでしょうか。

「運行管理者試験に合格しなければなりません。試験は年に2回あって、最近の合格率は30%くらいのようです。

運行管理者試験に合格できない場合は3日間の研修、講習を受けることを勧めています。その研修、講習が終わると、運行管理補助者として、一部点呼などの業務を行うことができるのです。

カンダコーポレーション株式会社横山さん

ただしそうやって運行管理者や運行管理補助者を増やしても、24時間体制で業務を行っていると、アルコールチェックをする人間が確保できない時間帯が出てしまいます。

そういった場合はIT点呼といって、他の事業所にオンラインで点呼をお願いする方法もとっています」(横山さん)

――24時間体制で仕事をしている企業で、対面のアルコールチェックを行おうとする場合、チェックする管理者の人材確保が課題ですね。

*IT点呼とは運送事業者が義務付けられている「点呼」を、IT機器を通して行うことです。点呼の基本は対面で行う「対面点呼」です。これに対し、IT点呼はパソコン、インターネット、アルコール検知器等を通して、擬似的に対面点呼を行うことをいいます。従来は安全性優良事業所(Gマークを取得した営業所)など、一定の条件を満たした場合のみIT点呼が認められています。

 

点呼で確認している内容は酒気帯びの有無だけではない

――カンダコーポレーションの場合、ドライバーは仕事の始めと終わりに、必ず営業所で点呼を受けて、アルコールチェックもしているのですね。

「我々は、アルコールチェックだけでなく、対面点呼を必ず実施しなければならないのです。緑ナンバーの車を保有している場合、法律で対面点呼の実施事項があります。睡眠時間がどのくらいだったかなど、体調についてヒアリングしたり、その日の仕事の指示を出したりすることを、必ず毎朝ドライバーと対面でやっています。そこに付随してアルコールチェックを行っているのが実情です。

カンダコーポレーション株式会社武井さん

要は『飲酒・残酒がないよね?』と顔を突き合わせて確かめることが先にあります。その裏付けとしてアルコール検知器使い、対面点呼をしてドライバーに体調面精神面などの問題がないかを確認します。我々はそれらを終えて初めて、『行ってらっしゃい』と、ドライバーを送り出せるのです」(武井さん)

――対話で、機械で、目視でと、何重にも確認しているのですね。

アルコールチェックの記録画面

「帰ってからも同様です。『○○さんお帰り。今日どうだった? ヒヤリハットはなかったかい? お客様に何か言われたかい? 問題なかったかい?』ということを確認する。その上で問題がなければ『明日はここ行ってもらうけど大丈夫かい?』と次の日の確認をして、『ありがとう、アルコールチェック機器で確認をしたら帰っていいよ』という流れになります」(武井さん)

――単純な確認作業ではないのですね。点呼の時間はどれぐらいかけているのでしょうか。

対面点呼実施場所

「人によりますね。話好きなドライバーなら長くなりますし。ただ我々としては、その会話のなかで悩み事などを引き出したいという意図もあるわけです。『悩み事があって眠れないよ』だとか『親の介護があって大変だ』とか……。そうするとこちらも『じゃあ運行を変えてあげなきゃいけないね』という対処もできます」(横山さん)

カンダコーポレーション株式会社横山さんと武井さん

「点呼が一種のコミュニケーションになっている部分がありますね」(武井さん)

*ヒヤリハットとは、危ないことが起こったが事故には至らなかった事象のこと。思いがけない出来事に「ヒヤリ」としたり、事故寸前のミスに「ハッ」としたりすることが名前の由来です。

 

安全運転への意識は、採用時の手厚い研修から育まれている

――御社ならではの安全運転の取り組みについておうかがいします。

「毎月1回ドライバーに対して安全講習会をしています。それは法律で実施が義務付けられていて、法定12項目を1年かけて教育するプログラムが定められています。

プラスαとして、社内外で起きた事故事例を元にディスカッションしたり、ドライバーが日頃運転しているなかで感じた課題を、ヒアリングしたりしています。安全講習会などの教育業務は、運行管理者が行なっていますね」(武井さん)

――ドライバーは実際の運転以外にも、学ぶべきことが多いですね。

「そうですね、教育や研修は大切です。特にカンダコーポレーションでは、採用時の研修に時間をかけています。採用した後、栃木県足利市にある自社の教習所での実地訓練と座学を経なければ、トラックに乗ることすらできません。

カンダコーポレーション株式会社のトラック

足利での研修を終えると、営業所での添乗指導というのがあって、自社の添乗指導員が一定の期間、添乗して指導します。ドライバーになるまでの指導は、かなり時間をかけて丁寧にやっていますね」(武井さん)

「『とにかく早く仕事に出たい』という人もいますが、カンダコーポレーションでは採用時の研修を経ないと仕事はできない。その研修で運送業に対する知識や、安全運転の意識をしっかり育てています。月に1度の安全講習会も、採用時に育んだ意識の延長線上として行われているので、ドライバーはその必要性を分かっています」(横山さん)

――緑ナンバー車保有企業では月に1度の安全講習会など、法的に義務付けられた講習があること。それに加えて、独自の安全運転を保つ仕組みを作っている企業もあるのですね。

今後白ナンバー車保有企業が、安全運転管理者をより効果的に機能させようとした場合、管理する側やドライバーの意識を高めるところから、取り組む必要性があるかもしれませんね。

 

アルコールチェックの運用初期に想定されるトラブルとは?

――白ナンバー車保有企業では、2022年10月からアルコールチェック機器の導入が義務化されます。最初は戸惑うことも多いと思うのですが、御社でアルコールチェック機器を導入した初期の頃、トラブルはありましたか?

カンダコーポレーション株式会社武井さん

「導入した当初は、頻繁にアルコールチェックに引っかかっていました。アルコールチェック機器は非常に敏感に反応するので、前の日に飲んだ残酒でも反応しますし、下手をすると発酵したパンやアルコールのマウスウォッシュでも反応してしまいます。ですから、よくピーピーとアラートがなっていましたね(笑)

今では現場も学んで、アルコールの反応は1ヶ月に1度出るか出ないかです。1ヶ月に1度であってもアルコールチェック機器が反応してしまうと大きな問題になるので、反応しそうな行為には自然と慎重になります」(武井さん)

検知なし継続日数

「当初はドライバーもアルコールチェックがあるのは分かっているのですが、自分がお酒を飲んだ量が、どのぐらい影響するのかが、なかなか把握できませんでした。一般的なアルコールチェック機器の反応ラインが、“呼気に含まれるアルコール0.15mg”といわれています。その基準は厳密で、前日の深酒もしっかりとチェックされます。

カンダコーポレーション株式会社横山さん

ドライバーは『明日からはアルコールチェック機器を使うからな』と言われても、前の日にいつものように飲んでくる。そうするとやっぱり残酒が残っている…ということが過去には頻繁にありましたね。本人的には前の日に晩酌するのは『いつも通り』なんですよね。『いつも通りではダメで、次の日に残っているアルコールを0.15mg以内に抑えなければならないのだ』と意識を変えるのに、時間がかかりました」(横山さん)

――今まで前日の飲酒は禁止ではなかったと思いますが、アルコール検知器の導入によって残酒のない飲酒量に制限されるわけですね。その線引きに馴染むには時間がかかりそうですね。

「僕はアルコールチェック機器は『引っかかっていいもの』だと思っているのです。なぜなら体に残っているアルコールを見つけるためのものなので、アラートが出るということは、アルコールチェック機器がしっかり仕事をしているということです。

アルコールチェックを行う場所

残酒が見つかることを過度に恐れて、それを使わないことの方が問題で、そういう意識が飲酒運転につながるのだと思います。管理者としてはドライバーにアルコール反応が出たら車に乗せなければいいだけです。

ただしもちろん、ドライバーが車に乗れなければ仕事に影響が出ます。それを引き受けて、反応が出たら『昨日何時まで飲んでいた? 何飲んだ? 何本くらい飲んだ?』と対話して、残酒が残らないラインを探って身に付けていくことしかないのではないでしょうか」(武井さん)

カンダコーポレーション株式会社横山さん武田さん

「ドライバーにはお酒をたしなむ人が多いので、アルコールチェックに対して、最初は抵抗があるかと思います。我々の会社でも、お花見の季節など飲酒イベントが多い時期には、いまだに残酒の反応が出てしまうドライバーもいます。

ただ我々は引っかかった者に対して『何でそんな時間まで飲んでいたんだ!』と、頭ごなしには言いません。『飲むなとは言えないし、言わないし、飲んでもいいよ。でも次の日仕事があるのだから、ある程度時間を区切らないと仕事にならないよ』と、説得するようにしていますね」(横山さん)

取材を終えて

どの業種でも、業務中や業務当日の飲酒が禁忌であることは常識です。しかし前日の残酒までを意識している人は少ないのではないでしょうか。

一方で運送業に関わる企業がアルコールチェック機器を導入すると、呼気のなかに飲酒運転で罰せられる基準である0.15mg以上のアルコールが残っていれば、ドライバーは乗車ができなくなります。

普段意識していなかったことを意識するまでには時間がかかるものです。2022年10月にアルコールチェック機器の導入が必須となるまでに、安全運転管理者など管理側の安全運転に対する理解と、ドライバーに対する丁寧なコミュニケーションが必要となりそうです。